【終戦の日特集】詭弁だらけの改憲案 学習院大教授・青井未帆さん|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【終戦の日特集】詭弁だらけの改憲案 学習院大教授・青井未帆さん

 敗戦から72回目の夏。そして、平和憲法が施行されて70年が過ぎた。時の宰相、安倍晋三氏は戦後の平和主義の象徴でもある9条の改正への意欲をあらわにする。先の戦禍を語れる世代が年々減っていく中、われわれは平穏な日常、安定した社会をどのようにつくっていけるだろうか。終戦記念日(15日)に合わせ、憲法学者で学習院大教授の青井未帆さん(44)、元自民党総裁で衆院議長も務めたハト派の重鎮、河野洋平さん(80)、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん(30)、財政社会学者で慶応大教授の井手英策さん(45)の下を訪ねた。


時代の正体取材班=田崎 基】憲法が施行されて70年。敗戦の焦土から生まれた平和憲法の根幹がいま、暴走する権力によって踏みにじられようとしている。5月3日、安倍晋三首相が読売新聞紙面や保守系団体の集会で披歴した改憲提案に、憲法学者の青井未帆さん(44)は眉をひそめる。「立憲主義や民主主義をうち捨て、自衛隊員の法的地位さえもいま以上に不安定にしようとしている」。そして警鐘を打ち鳴らす。「これは始まりにすぎない。最大の警戒が必要です」
 安倍首相は都議会議員選挙への応援演説で「安倍やめろ」とコールする人たちを指さし「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放ちました。安倍首相は一体誰と向き合っているのでしょうか。

 国民は「こんな人たち」を除いた残りの人だけで構成されているわけではありません。一国の首相として信じがたい振る舞いでした。こうした姿勢は安倍首相の憲法改正への取り組みについても通底しているように感じられます。

ふざけた首相提案


 安倍首相は9条1項、2項を残し「自衛隊」という文言を書き加える改憲提案をしました。「書き込むこと」それ自体は改憲の目的にはなり得ず、あまりにふざけた提案だと思います。

 私は(戦力不保持と交戦権の否認を規定した)憲法9条2項の解釈上、自衛隊の存在を認めることは難しいという立場です。仮に合憲とする政府解釈に立ったとしても相当ぎりぎりの状態でした。その上、安倍政権は(違憲と批判されても)集団的自衛権の行使を容認し、安全保障関連法制を成立させました。

 あり得ない説明を積み重ねた結果、国際社会の常識からしても全く通用しない理屈を立ててしまいました。既に不安定な法的地位の自衛隊を、そのまま憲法に書き込めば、一層不安定な状況に追い込むことにならざるを得ません。

 9条を改正して解決すべき問題があるとすれば、それは自衛隊員の法的地位です。これは人の命の問題であり、自衛隊員の命がかかっています。本来は自衛隊を書き込むとしても文言を書き加えるだけではなく、統治機構全般にわたるパッケージとして自衛隊を捉えなければなりません。

 ところが安倍首相の提案にはそうした要素がまるで見いだせません。結局は自衛隊を巡るさまざまな問題をあえて中ぶらりんな状態におくことになります。

 では、なぜ明記するのか。その先があると考えざるを得ません。例えば軍事法廷を設置する必要が出てくるとすればより大がかりな改憲が必要になるでしょう。海外派遣されている自衛隊員が戦闘に巻き込まれたり、人的被害を与えたり、あるいは「捕虜」となった場合には問題はより顕在化するでしょう。

 そうした現実的に起こりうる可能性を分かっていながら示さない。自衛隊といえば災害救助というイメージを先行させ、「書き込むだけ」と国民に説明するのは詭弁(きべん)であり、もはや嘘(うそ)です。このような改憲は危険でしかない。

政府解釈の一線破綻


 いまやだいぶ失われてきましたが、それでもまだ日本には「平和国家」としての国際的定評があります。自衛隊による国際貢献について私は、軍事的な貢献には限界があるものの、しかしそれでもできることはあるという立場です。

 国連平和維持活動(PKO)の現状を踏まえると、今後も派遣を継続するのであれば、派遣の可否を決するには新たな条件の検討が欠かせません。

 自衛権行使の合憲性を判断する際、政府解釈ではまず「武力行使に当たるか」「当たらないか」というラインを引く。PKOはそもそも武力の行使に「当たらない」という建前です。ですが、現在の国際社会におけるPKOは住民保護を最優先に置き、その過程での武器の使用はいとわない。交戦も辞さない。

 こうなると政府解釈の一線は破綻する。結論から言えば、交戦権を持たない自衛隊は既にできないことをやっています。この問題の解決は難しく、自衛隊を憲法に明記したところで意味をなさないのです。

 改憲提案4項目の一つに掲げられた緊急事態条項ですが、これがないと国民を守れないというのは完全な詭弁です。

 緊急事態時に国会議員の任期が満了し失職したらどうするのか、という話になっていますが、例えば第2次世界大戦の最中にも選挙は行われました。憲法には参議院の緊急集会という制度が定められています(54条2項3項)。

 また、仮に突発的な出来事によって憲法通りには選挙が行われなかったとしても、事後的に最高裁判所がどうとでも説明してくれるでしょう。議論すること自体が不毛と言うべきです。

 「高等教育の無償化」も果たして語るに値するでしょうか。財政的な手当が必要で、法律で具体的な制度を作らなければいけません。改憲によって実現すべきものなのか、その選択の妥当性に疑問を感じます。

 緊急事態条項や教育の無償化は多くの人が賛成してくれそうな提案だから挙げた、というのが事の真相なのではないでしょうか。

私たちの立憲主義を


 政治が行える外縁を憲法が定め、その中で一つ一つのよい慣行が積み重ねられていくことで、ようやく権力はまともに展開できる。

 しかしそのようなことをはなから無視しているのが、安倍政権の特徴です。

 一体、何のためにこんなことをやっているのか。

 その一つの駆動力になっているのが...

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