時代の正体〈498〉道徳教科化(中)「自由な発想奪う」

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/07/16 13:34 更新:2017/07/16 13:35
教科書会社8社が発行した小学校道徳教科書

教科書会社8社が発行した小学校道徳教科書

時代の正体取材班=成田洋樹、松島佳子】小学校道徳教科書の中には、これまでの副読本でも取り上げられている「定番」の教材が少なくない。教科書会社全8社が採用した定番の中には、子どもの自由な発想を奪う恐れのある教材があるという。

「わがまま」に罰


 「文部科学省は『考え、議論する道徳』として特定の考えを押し付けるようなことはしないと言っているが、実際の教科書はそうなっていない。答えが一つの教材や設問が多い」

 この3月で藤沢市立小学校教諭を定年退職した西光(にしみつ)美奈子さん(61)は教科書会社8社の道徳教科書を読み比べた際、違和感を拭い去れなかった。

 各教科書とも文科省作成の副読本「わたしたちの道徳」や、教科書会社の副読本で使用されている題材が多い。定番が使い回されている形だ。

 例えば、すべての社が採用した1年生の教材「かぼちゃのつる」は、ある教科書会社の副読本に掲載されていたものだ。

 擬人化されたかぼちゃが、つるをぐんぐん伸ばし、畑の外側の道や隣の畑にまで伸びることに対し、ミツバチに注意され、子犬につるを踏まれてもめげずに伸び続ける。最後は、道を通った車につるを引きちぎられる場面で終わる(教科書によって話の途中の展開が一部異なる)。

 設問では、かぼちゃの行為を「わがまま」という表現で非難する教科書が少なくない。

 〈だれかがわがままをいうと、まわりのひとはどうかんじますか〉

 〈ちゅういされたのに、きかなかったり、わがままをしたりすると、どうなってしまうのでしょうか〉

 〈どうして、わがままをしないせいかつがたいせつなのでしょう〉

 〈かぼちゃがしたことのこまったところはどこでしょう〉

 西光さんは、話の展開や設問の仕方に疑問を投げ掛ける。

 「つるが伸びるのはかぼちゃの特性なのに、わがままと決めつけてしまっている。『つるを踏みつけるなんて、子犬もいじわるだ』『車が通るのも悪い』といった意見が子どもたちから出てきてもおかしくないのに、この設問では子どもたちの自由な発想を生かした授業がどこまでできるだろうか」

 学校には集団生活になじめない子もいる。低学年のうちから集団に合わせることを過度に求められたら、子どもたちが疎外感を味わったり不登校になったりしないか。子どもたちの姿が教科書制作者らには果たして見えているのだろうか。西光さんが問題提起する。

 「周りとは違うことをしたら、どんな場合でも『それはわがまま』と受け止める子が出てこないだろうか。集団に合わせることが何よりも大事だと教科書が暗に示すことで、子どもたちが安心してクラスで過ごしたり自己主張したりする機会を奪いかねないのではないか」

 藤沢市在住で次男が小学校2年生の母親(45)は、教科書が差別感情を生み出しかねないと懸念している。「子どもたちにはそれぞれ得意なこと、不得意なことがある。集団の中でみんなと一緒にできない子は『問題児』と印象づけることにつながりかねず、誰かを排除することにならないだろうか」

 横浜市在住で長男が小学校6年生の母親(37)は「集団生活のルールはこうだ」と一方的に押し付けるような内容を批判する。「学校生活の中では互いに協力し合って物事を解決していく側面があるのに、ルールを破ると罰が下るという恐怖感だけを子どもたちに植え付けてしまわないか」

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