神奈川新聞と戦争(42)1945年「大統領の首」を取る|カナロコ|神奈川新聞ニュース

神奈川新聞と戦争(42)1945年「大統領の首」を取る

倒される瞬間のペリー上陸記念碑。写真説明には「神土より抹殺の瞬間」とあった(1945年2月9日付神奈川新聞)

 「ペルリ上陸記念碑神土より抹殺の瞬間」の説明を添え、1945年2月9日付の本紙に大きな写真が掲載された。前日、横須賀市の久里浜海岸に立つ同記念碑が「国辱的」として引き倒された決定的瞬間だ。

 見出しは「宛(さなが)ら“米国倒るゝ音”」。書き出しは次のようなものだった。

 「驕敵(きょうてき)アメリカ崩るゝの音--横須賀市久里浜海岸に去る明治三十四年以来建設保存されて居た米国水師提督ペルリ上陸記念碑は既報の如(ごと)く同碑保存会長藤原県知事から『国辱的記念物なり』との英断下り昨八日大詔奉戴日を卜(ぼく)として完全に撤去され一草一砂にまで滲(し)み込んで居たペルリ上陸記念の遺物は永遠にこの神土から抹殺された--」

 碑を「おごり高ぶる敵米国」に重ね、倒すことがあたかも戦勝することであるかのような書きぶりだ。現実の戦況は悪化し、前年7月にはサイパンが陥落。米軍のB29爆撃機による空襲が東京や神奈川で本格化していた。だが記事は、あくまで虚勢を張った。碑が倒されるその瞬間を次のように描写した。

 「ペルリ記念碑屠(ほふ)るの烈々たる挨拶(あいさつ)あつて直ちに撤去に移り高さ卅(さんじゅう)余尺の大石碑をガンヂがらめに縛りつけた太い鉄鎖は翼壮[大日本翼賛壮年団]団員の憤怒を籠(こも)る手に依り力一杯にグット引き締めれば重量三千貫の碑は基石の上からルーズベルトの白首を秋水一振、水も止まらず、たゝき落すが如く前にツンノメリ敵アメリカの物質文明崩るゝの日の音も斯(か)くやと思はれる轟然(ごうぜん)たる地響きを打つて前面の砂中にドツト転落し湧き起る万歳と拍手の内に敵アメリカが東洋制覇の野望を秘めた此(こ)の記念碑は永遠に砂中にメリ込んだ」

 新聞は記念碑をルーズベルト大統領の首に例え、碑を倒す引き綱を、その首を切る秋水(刀)に例えた。物量で圧倒する米国に日本の精神主義が打ち勝つ、との象徴的な意味合いが撤去作業に込められていた。日本が劣勢にある中で会場の人々は留飲を下げただろうが、もちろん一過性のセレモニーにすぎなかった。

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