水難、生きる意志こそ 船員向け訓練を体験

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/05/22 16:47 更新:2017/05/22 17:20
 乗っている船が遭難し、海に飛び込むことになったら-。海技教育機構(JMETS、横浜市中区)は5月から、海上でのサバイバル能力を高める船員向けの基本訓練を本格的に始めた。初めて開かれた講習会では、神奈川新聞横浜みなと支局に所属する記者(男性、42歳)も体験。印象に強く残ったのは、仲間と励まし合うことで「生きることへの意志を持ち続けること」だった。

 国際条約の改正により、船会社は今年1月から、船員に5年ごとに実技を受けさせ、船員としての能力を証明することが義務付けられた。JMETSは、船内訓練や履歴では証明できないサバイバル技術を中心に講習会を行っている。

 会場となった海洋研究開発機構(横須賀市)の潜水訓練プールでは、多くの船員が船内で着るつなぎに着替えて集合。(1)救命胴衣を着用しないで浮く(2)救命胴衣を着用して泳ぐ(3)救命いかだに乗り込む-の実技に挑戦した。

 まずはつなぎ姿でプールに。全身の力を抜いた上で頭を沈めて顎を上げ、腕を広げてバランスを取る姿勢「背浮き」を教わる。肺に空気が常にたまっているように浅い呼吸をすると、かろうじて浮いた状態を保つことができた。

 背浮きの状態で手を上げたり、「助けて」と叫べばあっという間に体が沈み、冷静さを失いかけた。救命胴衣の必要性を痛感した。

 ただ、船に備え付けの救命胴衣を着用するのも一苦労。体に合った正しい位置でベルトを締め上げて装着するのが大変で、これを1分以内に仕上げることが求められた。

 救命胴衣を着たら、次は高所から飛び込む訓練だ。片手で鼻の前を覆い、もう片方の手で手首をしっかりとつかむことや、入水する際に脚をクロスするなど、衝撃を和らげて安全に飛び込む方法を学ぶ。高さ3メートルほどの台の上からいざ水中へ。脚を閉じるのを忘れ、尻をしたたかに打ちつけてしまった。

 船が沈没したり、次々と人が飛び込んだりする可能性があるので素早く避難しなければならないが、救命胴衣を着ていると思うように泳げない。がむしゃらに泳いでいると、講師から「周囲をしっかり見て、集団で移動するように」と注意を受けた。

 集団だと救難機関から発見されやすくなるだけでない。波にのまれたり、サメなどの肉食生物に襲われる心配が減る。そこで、一列になって集団で泳ぐ隊形や、円陣を組んで360度の視界を保ちながら浮かぶ隊形を教わった。

 円陣を組む際のポイントは、二つ隣の人の手首をしっかりと握ること。人の輪が大きくなれば、負傷したり体力が弱った人を中に入れて救護できる。

 円陣を組むことの最大のメリットは「互いに励まし合い、生へのモチベーションを保つこと」と講師は強調した。水中では体温が奪われ、次第に判断力や意志が鈍ってくるという。孤独になれば、なおさらだ。だからこそ救助は必ずやって来ると励まし合う仲間の存在は大切だと実感じた。

 基本訓練では、15人乗りの救命ボートが反転して膨張した場合の戻し方や、救命いかだの乗り込み方も学んだ。腕力でよじ登る感覚に近く、乗り込むだけでくたくたに。助け合って乗ってしまうと安心感もあり、しばらく動けなくなった。

 直径3・5メートルの救命ボートは天井が低くて暗く、そこに10人あまりが黙って座っていると次第に息苦しくなった。潜水訓練プールは南国並みの水温で照明設備が整っていた。「もし、冬の夜に遭難すれば…」。厳しい環境の中、日夜働いている船員に思いをはせた。


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