【首相改憲提言の波紋】モンスター化する宰相|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【首相改憲提言の波紋】モンスター化する宰相

山崎雅弘氏寄稿(下)

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/05/22 12:20 更新:2017/05/22 12:41
 安倍晋三首相と閣僚による、日本国憲法第99条(国務大臣や国会議員らの憲法尊重擁護義務)違反という問題は、「教育勅語」を巡る安倍政権の動きにも見られる。

教育勅語復活の布石か


 敗戦から3年後の1948年6月19日、衆議院の「教育勅語等排除に関する決議」と参議院の「教育勅語等の失効確認に関する決議」がそれぞれ議決され、教育勅語の教育的な指導性が事実上否定された。

 天皇が臣民(主君に従うしもべとしての国民)に下賜する形式の「勅語」は、象徴天皇制と主権在民を明記した日本国憲法にも合致しないもので、文化的・歴史的資料として読む分には問題はないが、学校教育の現場で「子どもが従う対象」として使うことは、憲法にも国会決議にも反する「二重のルール違反」となる。

 ところが、松野博一文科相は今年3月14日、いくつかの条件を満たせば「教材として用いても問題ない」との見解を示し、同月31日には安倍内閣も「憲法に違反する形でなければ」教育勅語を教材として用いることを否定しないとの閣議決定を行った。

 教育勅語は、天皇の言葉という形式(実際にまとめたのは明治政府の高官)で記された道徳的な教えのすべてが、最終的に「天皇を中心とする国家体制への献身奉仕」に収斂(しゅうれん)される内容で、これをそのまま「憲法に違反しない形で教材として使用する」ためには、憲法の内容を変えて、象徴天皇制と主権在民を廃止しなくてはならなくなる。

 また、前記した衆参両院の決議は、一内閣の主観的な解釈に過ぎない閣議決定で無効化できるものではなく、その内容を完全に失効させるには、衆議院と参議院での「再議決」が必要となる。

 安倍政権と親密な日本会議の小堀桂一郎副会長は、雑誌『正論』2003年11月号に寄稿した記事で、望ましいと思う「教育再建」の指針として、戦後の教育基本法廃止と、衆参両院での教育勅語排除・失効決議の取消宣言、教育勅語の復活を挙げていた。

 最初の目標は、第1次安倍政権が2006年12月に行った教育基本法改正(愛国心教育の導入など)で実質的に達成され、次の目標である「教育勅語の教育現場への復活」も実現しつつある。

国民の覚悟が問われる


 2000年代に入り、日本では「モンスターペアレント」「モンスタークレーマー」などの言葉が使われ始めた。立場上の優位にあぐらをかいた親や消費者が、教師や学校、店舗や企業などに対して、既存のルールや社会的慣例を無視した、自己中心的で横暴な要求を出し続ける現象を表現した和製英語である。

 国会の議席数における優位と、ジャーナリズムによる権力監視のゆるみに乗じて、憲法や立憲主義の理念を堂々と無視する態度をとる総理大臣や閣僚の言動は、過去の歴代内閣とは異質なものであり、既に「モンスター化」していると言えるかもしれない。

 このモンスターを育てているのは誰なのか。餌を与えているのは誰なのか。取り返しのつかない事態に陥ってから、自分たちは大変なモンスターを創り出してしまった、と後悔しないためには、改めて「憲法」とは何なのか、「立憲主義」とは何なのかを、国民が生活レベルの実感として理解し、権力者からそれを守るという強い覚悟を持つ必要があるように思う。

 
やまざき・まさひろ 1967年大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。著書に「新版・中東戦争全史」(朝日文庫)、「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書)、「『天皇機関説』事件」(同)など多数。

COMMENTS

facebook コメントの表示/非表示

PR