時代の正体〈470〉「語れぬ」声伝えたい 上智短大2年上平 詩織さん

障害者殺傷事件考

現場周辺を訪ね歩く


 相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」殺傷事件について、事件や障害者福祉の現場を訪ね歩く学生がいる。上智短大2年の上平詩織さん(21)=秦野市。突き動かすのは「このままでは、専門知識を持っている人たちの声でしか事件を記すことができなくなる」との危機感だ。自身が精神疾患を患い、障害者の家族を持つ体験から「当事者にも言葉にできていない思いがある」と確信する。障害者や識者の元にも足を運び続け、声に出せない思いもあることを社会に発信するつもりだ。 

 「被害者家族や現在の職員が語ることができないのは仕方ない。でも、『語れない人がいる』ということを伝えることも大切ではないか」。上平さんが事件の被害者家族の思いを推し量るのは、自身の体験と無関係ではない。

 亡くなった祖父が認知症になり、家庭内で暴れていた。兄が重度障害者で施設に入所している。症状は落ち着いているものの、自身も精神疾患を患っている。兄や自分と同じ障害や疾患を抱える患者の家族の中には、周囲に打ち明けられないケースがあることも知っている。事情はさまざまでも、障害や疾患があることに後ろめたさを感じ、社会の目を気にしているのだ。

 上平さんには精神科での入院経験がある。体調に合わせて本人が入院の可否を決める任意入院だったが、それでも「生活全てが番号で呼ばれ、まるで名前がないかのような状況だったのが衝撃だった」。相模原殺傷事件で当初、被害者は一律匿名で発表され、今も一部を除き匿名のままだ。「入院時に、個別の人間として扱われず悔しかったことを思い出した。事件で犠牲になった人たちも悔しいだろう」

 それでも、声を出せないのは当然だと思う。口を閉ざす理由は社会の側にある。「『語れないこと』すら語られない状況が怖い」。
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 事件発生をニュースで知ったのは、短大の定期試験に向けて準備している時だった。勉強が手に付かなくなるほどショックを受け、言葉を失った。

 一方で、テレビでは専門家が饒舌(じょうぜつ)に語っていた。どれほど耳を傾けても言葉が耳に入ってこない。「なぜこんなに多くの言葉が出てくるのだろう」と驚き、次々と疑問が浮かんだ。
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