食用八重桜 伝統枯らせぬ

脚立に登り、八重桜を収穫する吉田さん(左)ら=秦野市千村

 全国シェア1位を誇る食用八重桜の産地・秦野市千村地区で花の摘み手の高齢化が深刻だ。多くが60、70代となり、危険を伴う高所での収穫作業を避け、花を取り残してしまうケースが増えている。「このままでは摘み手がいなくなってしまう」と危機感を抱いた市内の30、40代の飲食店経営者ら5人が立ち上がった。収穫と塩漬けの技術を継承し、地域の伝統を次世代に伝えていくつもりだ。

全国シェア7割超 産地守る

 
 
 ピンクや赤の八重桜が咲き誇る千村地区の頭高山。地元農家の小野孝允さん(71)は高さ10メートルの脚立に登り、手作業で花を摘み取っていく。「摘み手は60、70代が中心。足腰が弱り、脚立から落ちる人もいる」。後継者が育たない現状にため息をつく。

 千村地区の八重桜は江戸末期、地域の祭りの費用を集めようと始まった。地区には約2500本の八重桜があり、収穫した花は塩漬けに加工して全国に出荷され、桜湯や桜あんぱん、和菓子などさまざまな料理に使われる。年間出荷量は15~20トンで全国シェアの7~8割を占める。

 毎年、4月の開花期に農家は地元住民などと協力して、一斉に収穫する。ただ、収穫の時期は1週間ほどしかなく、1年分の収入を得られる訳ではない。

 「サラリーマンなら『桜が咲くので1週間、会社を休みます』とは言えないでしょう」と地元自治会の小野豊一会長(69)。地区に勤め人が増え、摘み手は定年退職後のリタイア世代が中心になっていった。

 高所での作業は危険が伴うため、体力と経験が重要になる。若手がいないことから、小野さんは「昔は高さ15メートルくらいまで登っていたが、摘み手には10メートル以上には登らないように言っている。高いところは収穫できず、3割は残る。収穫自体できず放置される木もある」と話す。

子どもや孫に



 伝統の継承に立ち上がったのは、市内でケーキ店を営む吉田伊織さん(34)ら。吉田さんは妻の実家が八重桜農家で、数年前に義理の祖母から「この分だと10年後に摘み手はいなくなる」と聞いた。全国に誇る産地の窮状を知り、大きな衝撃を受けた。

 毎月、地産地消を目的に飲食店仲間と、旬の地元素材を使った創作料理イベントを開いている。今年は3、4月に市が桜キャンペーンを行うのに合わせて、料理を作るだけでなく、仲間とともに収穫と塩漬け方法を学ぶことにした。

 20日、吉田さんら5人が木に登り、収穫を体験。その後、近くの塩漬け加工所に移り、岩佐スエ子さん(77)から指導を受けながら、塩と梅酢を加えた花を足で踏んだ。吉田さんは「直接、収穫することで、食材への愛着がより高まった。私たちも子どもや孫の世代に伝えていきたい」と話す。

 岩佐さんは「技術を受け継ごうとする思いは、とてもうれしい。1日で覚えられるものでもないので、何度も学びにきてほしい」と目を細めていた。

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