【特集】〈時代の正体〉立ち上がる日本ペンクラブ なぜ表現者は共謀罪に「NO」と言うのか|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【特集】〈時代の正体〉立ち上がる日本ペンクラブ なぜ表現者は共謀罪に「NO」と言うのか

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/04/24 19:02 更新:2017/06/06 21:38
【時代の正体取材班=田崎 基】国会で本格的に審議入りしたいわゆる「共謀罪法案」。言論人の団体「日本ペンクラブ」(浅田次郎会長)は2月、反対声明を発表した。明確に「NO」の意思を示そうと今月7日には都内で、一線の作家や映画監督、漫画家、学者らが「共謀罪は私たちの表現を奪う」と題してマイクを握った。表現者の使命として語られたのは、かつて抱いたことがないほどの危機感だった。登壇者14人の発言を詳報する。

「改心と表現認めぬ法」

森達也(作家、映画監督)
 あなたはいま生活が逼迫(ひっぱく)しています。お金が全然ない。毎日食べるものすらない。そうしたとき昔の悪い仲間から電話がかかってきたとする。「ちょっと銀行を襲撃しない?」

 10人くらいで計画を聞いた。人生イチかバチか、博打(ばくち)でやってみようか。そこで銀行に下見に来た。待合室で子どもを抱いたお母さんを見た。「自分にもあんな時期があったな。俺はいま何をやってるんだろうか」。銀行を出て、やっぱりやめようと思った。仲間たちも同じように考えていた。

 「そうだな。やっぱりやめよう」。そう言って居酒屋に行き、なけなしの金でビールを飲んで帰る。

 うちに着いたら家の前で警察が待っていて、逮捕される。

 こんな時代が本当にやってくるかもしれない。

 ジャン・バルジャン。彼はたった1個のパンを盗んだがために19年間刑務所に入れられた。出所後、迫害され、差別される。憎しみと恨み、その塊になってしまう。やっとジャン・バルジャンを泊めてくれる教会にたどり着く。そこで彼は夜中に、銀の食器を盗む。

 翌日、警察がやってくる。その警察に教会の司教はこう言う。

 「この銀の食器は、私があげたものです」。彼はその場で泣き崩れる。

 ビクトル・ユゴーが書いた「レ・ミゼラブル」。人間の聖なる姿と、可塑性を著している。

 人は弱い。誘惑に負ける。だが同時に人は反省できる。悪事に身を重ねても、違う自分に生まれ変わろうと思う。

 だが、この共謀罪はそれを許さない。捕まえてしまう。

分断と排除の思想


 国会で民進党の山尾志桜里議員が「一般の人が対象になることはないのか」と聞いた際、安倍晋三首相はこう答えた。

 「新興宗教だったオウム真理教が、犯罪集団に一変した。このときにオウム真理教の信者たちを一般人と言っていいんですか。言えるわけないでしょう」

 これを聞いていて、一般の方々は「確かにそうだな」と思うだろうな、と思った。

 オウム真理教の事件で起訴されたのは別件(逮捕)や微罪(逮捕)も含めて63人。一方、当時オウム真理教には1万1千~1万2千人の信者がいました。

 つまり1万人以上の人が犯罪について何も知らない。全く関わっていない一般市民です。

 でも安倍首相の論理を使えば全員、犯罪集団なんです。全部捕まえなきゃいけない。

 この論理ってなんだろうか。要するに「メキシコは犯罪国家だ」「イランやイラクはテロ国家だ」と同じ。(米国大統領の)トランプと同じことを安倍首相は言っている。一人一人を見ない。全体で見てしまう。つまりは安倍首相自身が最も嫌っている「レッテル貼り」に他ならない。

 「こいつらは犯罪集団だ」「こいつらはろくなことをしない」「こいつらは社会のためにならない」。だから排除しましょう、抹殺しましょう。そうしたことが現実に起きる。もう本当に秒読み段階だろう。

「NO」の意思発信


 今日のこの会の主役は誰か。

 森友学園問題はもう下火になっている。メディアもあまり取り上げなくなった。先日、民進党の議員に聞いた。「なんで森友学園問題をもっとやらないのか」

 まだ疑惑は晴れていないし、おぞましい問題をはらんでいる。(森友学園元理事長の)籠池泰典さんの証人喚問を見て「よし、これで疑惑は晴れた」と思う人はほとんどいないだろう。

 その民進党の議員はこう答えました。

 「いくら追及しても支持率が上がらないんだ」

 野党の支持率は上がらないし、与党の支持率は下がっていない。これほど大きな疑惑があっても盤石です。

 同じことをメディアの人にも聞いた。急に火が消えた。いまも問題はどんどん出てきているのに、なぜ報道を続けないのか。

 「視聴率が上がらない」

 一緒です。理屈は分かります。政治家は支持されないことでは活動できない。メディアも多くの人が見たり、読んだりしてくれないと意味がない。それは分かる。

 分かるけれど同時にやっぱり伝えないと、報道しないと、なかなか分からないことがある。

 だから、今日来ているカメラマン、記者、ディレクター、ジャーナリストの方、お願いします。どんどん報道してください。オンエアしてください。やるべきです。

 僕を含めて、映画監督とか漫画家、小説家、大学教授、写真家にとってみれば言葉や思想、表現は大切な商売道具。だから看過できない。ゆゆしき問題です。

 だから「一般の人には関係ない」と大半の方が思うかもしれない。

 だがそうではない。漫画が非常に沈滞してしまったらどうか。映画が政権に気配りばかりするようになったらどうか。小説が全く批判をできなくなる状況を考えてください。誰が損をするのか。誰が得をするのか。

 10年前であれば、私は「今日の主役はここに来たメディアだ」と言っただろう。だが今日は続きがある。

 いまはツイッターやフェイスブックがある。来場者の皆さん一人一人がメディアになれる。どんどん発信してください。

 知ればびっくりすることがたくさんある。知らない人はたくさんいる。その間に状況は変わる。

 この間、ふと気付いたことがある。

 日本語で、税金って「納める」という。でも英語では「Pay」。つまり支払う。これは支払ったら、等価を手にすることを意味している。

 僕らはいまだに「納める」。これは年貢です。僕らの公共財に対する意識はいまだにそのレベルなんだ。だがそろそろ脱しないといけない。こうしたとんでもない法案が出てきたいま、この数年間の動きに対して「NO」という意思を示して、状況を変えましょう。

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