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自分が楽しみ、見る人に届ける

内野聖陽

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【K-Person】内野聖陽


 ウィリアム・シェークスピア劇の最高峰「ハムレット」に主演する。400年以上も前に生まれた脚本は、英語を母国語とする役者にとっても、クラシカル(古典的)で演じるのが難しいとされる。演出はシェークスピアを研究してきたジョン・ケアードで、今作が4度目のタッグになる。

 「シェークスピアは言葉のマジシャン」。翻弄(ほんろう)されながらも「つかめばその魔術を、意のままにできる」と、言葉を砕く日々が続く。

 48年間生きてきて得た言語感覚が灯台になっている。それでも「シェークスピアは演劇を見に行くのではなく、演劇を聴きに行く」と説くケアードと向き合う時間は「戦い」と神経をすり減らす。ハムレットの有名な独白「To be, or not to be」が持つ熱を日本語でどう伝えるか。言葉の裏側にあるイメージを膨らませようとオリジナルの脚本にも目を通した。「ハードルが高いほど、役者として燃える」

 今作を見るキーワードは「愛」と「魂」と力を込める。稽古では、感動しながら演技している自分がいる。「瞬間瞬間、何て面白いんだ!と思う。いいなと感じたものしか届けられないから、僕が最初のお客さんにならないと。自分自身がやりたいと思えないと、見る人に伝わらない」

 ジャーナリストを目指し、早稲田大学で政治経済を学んだ。在学中に入った英語サークルで英語劇を経験。単位が足りず卒業できずにいたとき、先輩に文学座の願書を渡された。これが運命を変えた。

 5年の下積みを経て、開いた役者の扉。ドラマ、映画、舞台と活躍の場を広げても目の前のタイトロープを必死で渡る、ギリギリで生きることを常に自らに課す。「薄氷を踏むような思い。うまくいくんだろうか、でもオレならきっとうまくいくっていう、勇気と自信と恐怖と不安。せめぎ合いの中に毎日、身を置いている」

 劇中には「役者は時代の縮図、生きた年代記だ」というセリフがある。「役者一人一人の人生が、垣間見えるような舞台になる。役者が発した熱。それを受けた観客それぞれの人生観が言葉や作品を輝かせる。いままでのハムレットを覆すような、芳醇(ほうじゅん)なものになる」

 不安を上回る確かな自信。「大変なんだけど、すごく楽しい」と緩めた目元に、内野ハムレットが生まれたのだと感じた。

うちの・せいよう
俳優。1968年生まれ。横浜市出身。テレビドラマ「街角」で93年にデビューした。映画や舞台など幅広く活躍。昨年、出演したNHK大河ドラマ「真田丸」では徳川家康をコミカルに演じ、話題を集めた。舞台「ハムレット」東京公演は「東京芸術劇場 プレイハウス」で9日から28日まで。


記者の一言
 自らの肉体を通して放った言葉で、地球を抱きしめたいと言う。シェークスピアが相手にしているものが、自然だと気づき、野生児だったことは有利だと笑った。「月影縫って出没する」と口にした「月」を観客は三日月と思うのか、満月を浮かべるのか。見る人の想像を導くのが役者の務め。徳川家康、坂本龍馬ら偉人、医師や検視官など多種多彩な役柄と向き合い、常に自分を追い込んできた俳優が「役者人生をかけている」と言い切った。取材中、セリフを口にしたときは目の色が変わり、ハムレットが憑依(ひょうい)したようだった。それまでの会話と全く違う気迫に言葉を失った。役によって生まれたイメージを、次の役で塗り替えていく。「『うちのせいよう』なんて名前、覚えてもらわなくてもいい」と豪快に笑った。役者の矜持(きょうじ)がにじんでいた。


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