【特集】〈時代の正体〉避難者の「11の質問」から見えるフクシマの現実|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【特集】〈時代の正体〉避難者の「11の質問」から見えるフクシマの現実

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/02/11 02:00 更新:2017/03/23 13:38

「避難指示解除」を問う(1)政府の帰還決定は違法

 
【湘南総局=松島 佳子】「明確な基準や根拠もなく、住民を戻そうとしているのですか」-。東京電力福島第1原発事故から間もなく6年。政府は今春にも福島県の一部を除く地域で「避難指示の解除」を目指す。先月29日、政府主催の富岡町の住民を対象にした説明会が都内で開かれた。全町避難が続く富岡町。席上、参加者からは疑問の声が相次ぎ、中でも横須賀市に避難している被災者の1人は「11の質問」を投げ掛けた。その問答で見えてきたものは-。関連記事はこちら

 時計の針は午前11時を回っていた。説明会終了まで残り30分。最前列の右端に座っていた佐藤信行さん(65)が立ち上がった。

 「資料を作ってきました。聞きたいことが11項目あります」

 司会の町職員が「11項目あると、けっこうな時間が…」と戸惑う。それでも佐藤さんは構わず、続けた。

 「5分くらいで話します。国に対しての質問が主です。私は横須賀に避難しているんですが、去年10月、横須賀であった住民座談会で、町に質問したものと同じ内容です。そのとき、町に議事録を作ってください、と宿題を出したんですが、一向に回答は来ていません」

 会場の前方中央には、原子力災害現地対策本部、復興庁、環境省、経済産業省ら政府の官僚が並ぶ。富岡町の町長、副町長ら町幹部もいた。そこに向かって佐藤さんは歩みだし、質問事項を書いた資料を手渡し、「では」と始めた。

 佐藤さんの質問は、こんな内容だった。

富岡町地図


安全、安心はどこに


 一つ目、「帰還」に関して。現状で100%安全と言えるか。福島第1原発の1、2、3号機ともに原子炉建屋5階のプールに使用済み核燃料が残っている。仮に東日本大震災のような大地震が来たらどうなるか。建屋が崩れ、燃料プールの水が漏れてしまったら、燃料棒はむき出しになる。そうなれば、強い放射線や熱を発し、再び人が近寄れない危険性がある。安全の説明がつかない。現に、福島第1原発事故では燃料棒が溶け落ちた燃料デブリはまだ地下に落っこちたままだ。

 二つ目。原発事故の報告書、最終の報告書はあるのか。富岡町には東京電力福島第2原発がある。第1原発の事故原因と事故防止の対策が不明のままでは、仮に第2原発を運転する場合、第1原発の調査報告を反映させないと、起動できないのではないか。帰還してから、第2原発再起動の議論でもめるのはごめんだ。もう巻き込まれたくない。事故報告書を明らかにして、現時点で第2原発事故を再起動するか否か、はっきりしてほしい。

 三つ目。「安心、安全」はどこにいったのか。事故以前、原発で些細(ささい)なことがあると、国や県、町は「安心、安全はどうなっているのか」と東電を追及した。その姿勢はどこにいったのか。

 この3番目の質問に言及するころから、佐藤さんの口調は熱を帯びた。身ぶり手ぶりを交え、時折、満席になった会場を見回し、声を張り上げた。

 前方では政府職員らが質問資料に目を落としたり、分厚いファイルを取り出して読み込んだりしている。

 佐藤さんの問いは放射線の許容被ばく限度に向けられた。事故後、誰もが抱き続けた根本的な疑問と不安に関して、である。

「20倍」の根拠示せ


 放射線に関しても、政府は事故前、一般公衆の追加被ばく線量の限度を「年間1ミリシーベルト」と言っていた。今は「年間20ミリシーベルト」と言う。どうして20倍になったのか。その理由、根拠をはっきりさせてほしい。

 事故前の「1ミリシーベルト」には根拠があった。一つは、東京電力が原発作業員に渡してきたマニュアル。不要な被ばくを避けるため、放射線防護について指導する内容だ。

 この中で東電は、1時間当たり0・11マイクロシーベルト以上の区域を「周辺防護区域」とし、その区域内には居住施設をつくることができない、と規定している。年間に計算すると、963・6マイクロシーベルト以上、つまり0・963ミリシーベルト以上の区域に住んではいけない、と。

 日本原子力発電の第1回放射線管理小委員会資料にも同様の記載がある。放射線業務に携わる作業員の健康を守るため、原子炉等規制法に基づき区域管理を行う内容だ。ここでも「管理区域周辺では年間1ミリシーベルトを超えない」と規定している。

 なぜ、「年間1ミリシーベルト」が基準になっているのか。法律で定められているからだ。事故後、政府は限度を「年間20ミリシーベルト」としたが、これは明らかに原子炉等規制法に反している。だから現在の法律では年間1ミリシーベルト以上のところには住めない。帰還できない。

大きな拍手


 3番目の質問を佐藤さんは、こう締めくくった。

 「政府が『年間20ミリシーベルトを基準に帰還を促す』と言うなら、法律を改正、もしくは廃止してください。そうでなければ、避難指示解除はだめです。違法行為です。国は法を犯しています」

 政府は法律を犯してまで住民を帰還させようとしている-。

 この言葉に、会場を埋め尽くした88人の住民からこの日初めて大きな拍手が上がった。白髪の高齢男性は手を叩きながら「そうだ!」と叫んだ。

 前列中央では、原子力災害現地対策本部の総括班長が顔を上げることもなく、懸命にペンを走らせていた。



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