〈時代の正体〉「県の議論は拙速」 やまゆり園建て替え巡り公聴会

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/01/11 00:24 更新:2017/01/26 22:45
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 【時代の正体取材班】19人が殺害され、27人が負傷した相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」の現在地での全面建て替え方針を巡り、県は10日、横浜市神奈川区のかながわ県民センターで公聴会を開いた。県内27の障害者団体、有識者13人が出席。入所者の意向確認の徹底を促す意見が相次いだ一方で、「議論が拙速」として白紙撤回を求める声も上がった。

 県が3月までにまとめる予定の基本構想のコンセプトの柱は、▽「再生のシンボル」として建て替えることで「事件に屈せず、共生社会を目指す」というメッセージを発信▽地域生活への移行促進や地域で生活する障害者や家族の支援▽グループホームに近い生活環境を提供▽地域との交流の一層の促進-など。

 公聴会では、県が構想のコンセプトについて説明した後、3会場に分かれて各出席者が10分以内で意見を述べた。

 障害当事者は「容疑者だけでなく、社会の多くの人々の中にも優生思想がある。県の憲章では、そこまで考えられていない」と指摘。公聴会で出た疑問点について県側の考えを示す機会を設けるよう出席者から求められた県は「基本構想についてのヒアリングは今回で終了」と応じた。傍聴者は「巨大プロジェクトの公聴会が1回限りというのはおかしい」と批判した。
 
 出席者の主な意見は次の通り。

 NPO法人県障害者自立生活支援センター理事長 鈴木治郎さん
 
 基本構想を巡る県の姿勢は性急過ぎるし、説明不十分。方針の白紙撤回の考えを示してほしい。定員160人の施設を再び造るというのは、地域移行を目指す社会の流れに合ったものか。地域で生活できる環境をどうつくっていくかがとても大切。やまゆり園の現在地の半分以上は、風化させないために建物を残してメモリアルパークにしてほしい。県はこの公聴会でただ単に意見を聞くだけではなく、私たちに回答する場を設けてほしい。

 障害のある人と援助者でつくる日本グループホーム学会事務局長 室津滋樹さん 

 今後、地域移行を進めるためのモデルとして県が考えているということは、心強い。だが、施設側が一生懸命努力しても、地域移行は進まないのではないか。地域に支える力がなければ、移行は進まないからだ。支援者が地域に出て行って、地域での新しい生活を支えるために必要なことを地域でつくっていくことが必要。地域の力こそ底上げしなくてはならない。地域移行のモデルをつくっていくというのであれば、3月までの検討ではあまりにも時間がない。これから数十年間にわたって使う施設の機能をどう考えるか、もっと多くの知恵と努力が必要だ。きょう一日で議論を終わらせるのではなくて、神奈川全体で必要なことは何かを話し合う検討会を開いた上で、やまゆり園で何に取り組むのかの検討をしていただきたい。

 県頸髄損傷者連絡会 磯部浩司さん
 
 健常者が事件現場に家を建て替えて住むかと聞かれたら、多分住まないと思う。それが障害者の場合、疑問も持たれずに施設が造られてしまうのはおかしい。家族会や指定管理者の法人の意向で建て替えという話になっていると聞いたが、当事者の声を聞いてほしい。親の思う幸せと、当事者は違う。建て替えは拙速だ。重度障害者は言葉でやりとりできない方が多い。どうしたら自分らしく生きられるかを、時間をかけて聞き取らないと本当のニーズは出てこない。事件に屈しないシンボルにすると強調しているが、そのために建て替えるというのは納得いかない。議論の進み方が早すぎる。このヒアリングも1回で終わりかなと感じるが、何度も丁寧に話し合ってベストを探ってほしい。

 NPO法人県精神障害者地域生活支援団体連合会 戸高洋充さん

 やまゆり園は1964年に作られた施設。50年たってそもそも大規模施設が必要か。当時と今求められているものは基本的に違う。地域移行と言われるが、入所施設からの地域移行は進んでいないのが現状。地域移行を進めるというのがシンボルであって、そのためにどんな施設であるべきかが最初に考えるべきことだ。入所施設が一定程度必要というなら、どういう機能を持たせながら地域移行を進めていくかが肝だ。どんな施設を造り、どう地域で役割を果たすか。基本は地域生活。地域に戻るプロセスをどのようにつくっていくかを軸にして進めていかないと、50年後の人たちに何と言われるか分からない。

 県手をつなぐ育成会会長 依田雍子さん

 福祉理念の変化や地域福祉サービスの充実、今後の人口減少を考慮すれば、大規模収容型の再建は適切ではない。形だけ小さくしてグループホーム型にすればいいということでもなく、人権に配慮した職員体制が必要だ。家族の意向イコール本人の意向とは限らない。本人の意思がどうなのか、本当にあの場所に戻りたいのか。選択肢がなければ、答えられないのではないか。地域との交流については、たまに触れあうのでは意味がない。もっと日常的なことでなければならない。たまに外から来てもらう交流ではなく、施設から社会に出て行くという機会がなければいけない。形だけの交流で終わらないようにしてほしい。

 県障害者施策審議会委員でNPO法人県視覚障害者福祉協会理事長 鈴木孝幸さん

 県は神奈川の障害者福祉についての考えを取りまとめた上で、やまゆり園の再生計画を立てるべきだ。建て替えありきではなく、事件をきっかけに障害者への理解をどう深めるかというのが重要なポイントだ。これからは地域で生活するのが基本であり、事件をきっかけに地域とどう共生していくかを考えることが大切。8~10人規模のグループホームを数多く作っても、やまゆり園建て替えに掛かる費用ほどの予算は掛からない。地域との交流を深め、障害への理解を深めることにもつながる。何十億を掛けるよりも少ない予算で多くの小規模施設を整備して、障害への理解や地域に開かれた施設にするべき。職員の処遇改善も必要だ。

 県重症心身障害児者を守る会会長 伊藤光子さん

 県が構想している施設は素晴らしい建物。しかし、外部からの安全よりも、まず内部で生活面が重要視されるべきだ。悩んだときに職員間でコミュニケーションが取れていたか、上司との相談態勢はあったか。容疑者には人を思いやる心が育まれていなかったのではないか。小さい時から家庭や学校教育で育むべき。毎月26日には献花をしている。亡くなった人の立場から意見を言うと、この場所に慰霊碑を建ててほしい。事件を風化させないために、19人の無念を心に刻むために小さな公園にして、慰霊碑を造ってほしい。




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