「やまゆり園」再生 入所者の意向確認を|カナロコ|神奈川新聞ニュース

「やまゆり園」再生 入所者の意向確認を

DPI日本会議、尾上浩二さんに聞く

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/01/06 14:13 更新:2017/01/06 14:20
 19人の命が奪われた知的障害者施設「津久井やまゆり園」の再生を巡り、県は入所者約130人が戻れる規模を前提に、同じ場所で建て替える方針を示している。10日には公聴会を開いて関係団体や有識者らの意見を聞き、策定中の基本構想に反映させる考えだ。事件からおよそ半年間の検討プロセスに問題はなかったか-。DPI(障害者インターナショナル)日本会議の尾上浩二副議長は「何よりもまず、入所者本人の意向を確認するべき」と指摘する。

当事者置き去り


 建て替え方針を決定した県の検討過程の中で意見を聞かれたのは、入所者の家族会と施設を運営する指定管理法人だけでした。障害者の場合は特に、本人と家族の意見は必ずしも一緒ではなく、利益相反になる場合さえあります。それは障害者と施設側についても同じです。

 家族や施設の意見を切り捨てろと言っているのではありません。それぞれ違う意見があるということを前提に、各意見を聞かなければなりません。

 この分野で有名なスローガンがあります。「私たちのことを、私たち抜きに決めないで(Nothing About Us Without Us)」

 障害者本人の意見を聞かず、例えば家族や専門家が良かれと思ってやってきたことが、結果として障害者を社会から隔離、分離してきた歴史があります。

 その反省から、第一の当事者である障害者を中心に据えるべきだというのが、日本も批准している障害者権利条約なのです。県は拙速な判断をやめ、じっくりといろいろな立場の人に意見を聞いてほしい。とりわけ障害当事者の意見を丁寧に聞くべきです。

分離から包容へ


 権利条約は、障害の有無によって分け隔てられないインクルーシブ(包容)な社会の実現を求めています。その条約を批准した日本で、大規模な入所施設を同じ場所に再び建て、それが事件に屈しないことだというのは短絡的です。

 容疑者は「障害者はいなくなればいい」と言い、「分離」を「排除」まで高めようとしました。だとすれば、「分離」から「完全なインクルージョン」へと転換するのが事件と闘うということです。

 県が事件を痛切に受け止めるのであれば、「分離」を固定するような形で施設を建て替えるのではなく、入所者が地域移行できるようにするのが本来的なあり方です。

 「理想は分かるが、やっぱり地域で一緒に暮らすのは難しいのでは」という見方があるかもしれません。「入所施設があった方が彼らのためにいいんじゃないか」という、かっこ付きの「善意」によるものでしょう。県のやり方にも「善意」の履き違えがあるのではないでしょうか。

 悪意はないとしても、検討の方向を間違えれば、障害者を社会から遠ざけるという意味では、結果的に容疑者の言っている事件の目的に手を貸す方向に進んでいってしまう。

 いくら「優生思想は駄目だ」「共生社会を実現する」と言っても、腹の底で「障害者は大変そうだ」「地域移行は難しいだろう」と思っているままでは、建前と本音の分裂です。また誤った歴史を繰り返すのでしょうか。

聞き取り丁寧に


 繰り返しますが、まずは入所者の意向を聞き、一人一人にどういう支援が必要なのかを徹底して考えるプロジェクトが必要です。障害が重いため、本人の意向確認が困難だと言われるかもしれない。しかし、私の知っている重度重複障害の人は、気にいらないときは体をちょっと傾けたりする。言葉で話せなくても、彼らなりの表現をしている。

 確かに、会議室に呼んで「今の施設がいいですか、地域で暮らしたいですか」と聞いても答えるのが難しい人もいるでしょう。そうした形式的な聞き取りではなく、グループホームやアパートでの生活の体験も含めた丁寧な聞き取りが必要です。

 選択肢を実際に示し、その人がどの環境に身を置いたときに一番いい表情をするかを見極めることこそが、本来の意味で「聞く」ということです。そうした聞き取りのプロセスを、日々の支援の中ですでに実践している団体もあります。

 仮に建て替えるにしても4~5年かかります。その時間があれば、体験も含めて当事者の意見を確認することができるのではないでしょうか。「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」という世界的な流れに沿った形で、当事者の声を徹底して聞くことを大切にしました、ということこそが世界に誇れるのではないでしょうか。

地域生活支援を


 事件そのものの重大性と影響を考えると、単に一施設、あるいは相模原市、神奈川県だけの問題ではありません。海外のマスコミに取り上げられ、ホワイトハウスも含めてお悔やみの言葉があり、「障害者排除」の克服は世界的な課題とも言えます。

 県は率先して、21世紀の障害者福祉のあり方を示すべきです。聞き取りの結果、グループホームやアパートでの生活を希望される方がいるはずです。現行の国の報酬体系で実現が厳しいのであれば、県独自の加算を付けて地域生活をサポートすることをモデル的でもいいからできないでしょうか。建て替えにかかる60億~80億があれば十分、約130人の希望に沿った住まい方と、特別加算体制がつくれるだろうと思います。

 事件を受けて県が定めた共生憲章には、「誰もがその人らしく暮らせる地域社会を実現します」とあります。単なるうたい文句でなく、この憲章に沿った形で同園再生の基本構想をつくるべきです。

 基本構想についての公聴会には、前述のように丁寧な聞き取りを行っている先進的な団体などに参加の案内を出しているのでしょうか。県内の約80団体などに参加を呼び掛けているそうですが、予定のわずか3時間では各団体に十分な発言時間が与えられないのではないかと懸念します。意見の理由などをじっくり聴き、熟議することはとても無理だと思います。

 かつて、障害当事者とさまざまなやりとりを重ねながら独自の施策をつくりあげてきた県の歴史を多少は知る者として、とても残念に思います。

 おのうえ・こうじ 1960年、大阪市生まれ。脳性まひで、養護学校(現特別支援学校)や入所施設を経て、中学から普通学校へ進む。大阪市立大入学後に障害者運動に参加、駅のエレベーター設置や福祉のまちづくり、自立支援に取り組む。

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