〈時代の正体〉朝鮮人「虐殺」と記述せず 横浜市教委副読本

歴史を学ぶ市民の会・神奈川が情報公開請求で入手した最終稿のコピー

【時代の正体取材班=石橋 学】横浜市教育委員会が本年度リニューアルする中学生向け副読本の関東大震災における朝鮮人虐殺の記述を巡る問題で、市教委は「朝鮮人や中国人が殺害される、いたましいできごとも起こりました」との表現で最終稿を決定したことが分かった。原案にはなかった史事は記載されるものの「虐殺」と表記されていないなど、市の歴史教育の後退ぶりを反映した記述となっている。

 新副読本「ヨコハマ・エクスプレス」(仮題)の最終稿は、市内の被災状況を説明した上で「火災と余震に襲われた市民は不安にかられました。この混乱の中で、根拠のないうわさが流れ、朝鮮人や中国人が殺害される、いたましいできごとも起こりました」と記述している。

 市教委指導企画課は「虐殺という表現も含め検討を重ねたが、最終的にはこれまで作り上げてきた旧副読本の記述を大切にした」と話す。旧副読本「わかるヨコハマ」は2012年度版まで「虐殺」と表記し、その主体に軍隊や警察、自警団を明示していたが、市教委は13年度版の改訂で「虐殺」を「殺害」に書き換え、軍隊と警察の関与を示す記述を削除しており、それに準じたとの説明だ。

 新副読本は「学びを深めるきっかけをつくる」をコンセプトとしており、同課は「末尾には『どうしてこのようなことが起きたのでしょう』という一文を添えており、そこから子どもたちが関心を持ち、背景などより詳しく学んでくれることを期待している」とも。

 最終稿は現在校正作業中で、年明けにも教育長決裁を経て印刷に入り、年度内に市立中学校の1、2年生に配布するとしている。

 副読本を巡っては、虐殺に関する記述が一切ない原案が9月に判明。歴史研究の成果を無視した改訂がなされた経緯を踏まえ、研究者や市民団体、市民らから「歴史の隠蔽(いんぺい)は許されない」との批判が市教委に数多く寄せられた。市教委が10月の市教委定例会で虐殺の史実を歴史教育、防災教育の観点から記載する方針を明らかにしたことから、記述内容と表記に注目が集まっていた。

 情報公開請求で最終稿を入手した市民団体「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」(北宏一朗代表)は虐殺の文言は23種類ある中学・高校の歴史・日本史教科書のうち12種類で使われ、軍隊と警察の関与は15種類で記載されており、特別なことではないと指摘。メンバーの元市立中学校社会科教諭、後藤周さんは「歴史事実が一切教えられないという最悪の事態は避けられたが、記述は大きくゆがめられたままだ。13年度版の改訂で削られた虐殺の表記と官憲の関与の明示、市民が反省を込めて建てた慰霊碑の写真の復活を求めていく」と話している。

 同会は来年1月14日、横浜市神奈川区のかながわ県民センターで緊急集会「副読本問題を考える集い」を開く。午後6時からで、田中正敬・専修大教授(関東大震災朝鮮人虐殺の国家責任を問う会事務局長)が朝鮮人虐殺を巡る記述の意味について講演する。

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