デビュー10年、原点の舞台に  中村蒼|カナロコ|神奈川新聞ニュース

デビュー10年、原点の舞台に  中村蒼

旬漢〈19〉

若手実力派として注目される俳優の俳優の中村蒼

他の写真を見る
 若手実力派として注目される俳優の中村蒼(25)にとって2年ぶりの舞台となる「さようならば、いざ」が16日、東京芸術劇場(豊島区)で始まった。劇団「ONEOR8(ワン・オア・エイト)」と初タッグを組んだ作品では、「みんなで同じ方向を向いて、ものを創ることが楽しい」と瞳を輝かせた。

 デビュー10年を迎え、演じる幅が広がった。滝沢秀明の恋敵を演じたドラマ「せいせいするほど、愛してる」(TBS)では、高級服飾メーカーの広報マンを、にぎやかな関西人として好演。甘いセリフで女心をわしづかみにした。放送中のコメディードラマ「潜入捜査アイドル・刑事(デカ)ダンス」(テレビ東京)では、捜査のためにアイドルになり情報を集める異色の刑事を熱演。「いまやっている役と真反対の役が来ても、飛び込んでいきたい」と貪欲だ。

 福岡で生まれ育った中村に転機が訪れたのは、14歳の時。父親が雑誌のオーディションに応募し、最終審査に臨む10人に残った。だが、読者投票の人気は10番目。ライバルたちが黄色い声援を浴びる中、声が掛からないランウエーを歩いた。「早く終えて東京観光したいなぁ、と思った」と苦笑いする。

 「スポーツも勉強も得意と言えるものがなくて、人前で発言することも苦手でした」。福岡から東京まで飛行機でレッスンに通う中で「何がしたいのか」と自分と向き合うようになった。課題に無我夢中で打ち込む中で、少しずつ視野が広がっていった。

 15歳の時、寺山修司原作の舞台「田園に死す」の主演に抜てきされた。「稽古したことを精いっぱいやろうと。必死で無知だったから、できたのだと思います」と振り返る。

 わずか2カ月だったが、東京で1人暮らしをし、本番と稽古を繰り返した日々は「決めたことができた達成感があった」と言う。「お客さんの反応を肌で感じたり、拍手やカーテンコールを受ける楽しさを知った」
 プロとして舞台に立った経験から「芝居と向き合いたい」と覚悟を決め、16歳で単身上京した。

 デビュー10年の節目に、再び原点の舞台に戻る。

 最新作は、獄中死した父親の葬儀のため、遺骨を受け取りにいくところから始まる。私生活では両親や姉と仲良しだが、作品では父親と仲が悪く、死去の知らせも悲しみより安堵(あんど)が強い複雑な役どころだ。「舞台という限られた空間を、ロードムービーのように動きがあるものにしようと、現在、過去と時間軸を変化させるなど、さまざまな仕掛けがあります」と自信をのぞかせる。

 一方、熱血刑事でアイドルという主人公・辰屋(たつや)すみれを演じるドラマは佳境に入った。笑いの要素が強い作品だが、「本質を見よう」という役のセリフに共感した。「芸能界というイメージを付けられやすい世界にいるので、セリフを口にしたとき、本当にそうだなと痛感しました。インターネットやテレビなど他者が伝える情報ではなく、自分が感じたものが人との関係をつくる上で大切だと思います」

 木訥(ぼくとつ)な口調だが、常に核心を探す洞察力が役を自分色に染め上げる源になっている。

PR