【ひとすじ】他者の傷に寄り添う|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【ひとすじ】他者の傷に寄り添う

現代美術家・渡辺篤


□血の流れない自殺
 09年に東京芸大大学院を修了。芸大には4浪して入り、プライドもあった。だが才能ある友人たちへの嫉妬や制作上の悩み、結婚を考えていた女性との別離などが重なり、もともと10年近く患っていたうつ病もあって、10年の夏ごろから自室にこもるようになった。

 ほとんど寝たきりで過ごし、両親が起きている間は顔を合わせるのが嫌でトイレにも行かず、ペットボトルに尿をためた。携帯電話を壊し、ネット上からは自分のアカウントを消した。社会から自分の存在を抹殺するつもりだった。「血の流れない自殺だと覚悟していた」

 全く接触してこない母。幼いころは暴力を振るってきた父。家族への怒りがふつふつと湧いた。「自分が傷ついたことだけ見ていた。他人にどうやってその傷を返そうか、それしか考えていなかった」

 だが7カ月半が過ぎたころ、父に強制的に精神科へ措置入院させられそうになった。この先の人生を父に支配されたくないと思ったこと、母もまた心身ともに弱っており、自分が守らなければならない存在だと気付いたことで、部屋を出ようと決意。11年2月11日、東日本大震災の1カ月前だった。

 部屋を出る瞬間、自分のポートレートと汚い部屋を写真に撮った。自分はアーティストなのだと思い知った。引きこもっていたのはこの写真を撮るための場づくりだったのだ、と意識を切り替える意味もあった。
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