時代の正体〈330〉憲法学者・石川健治さん特別講座④ 緊急事態条項|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈330〉憲法学者・石川健治さん特別講座④ 緊急事態条項

本当の動機9条改正

 安倍晋三首相や自民党による緊急事態条項新設の提起に対し、憲法学者の石川健治さん(54)は懐疑的だ。「目的を突き詰めていくと動機があぶり出される」。その動機とは何か-。

 -これまで自然災害について話を伺いましたが、自民党の改憲草案は「外部からの武力攻撃」や「内乱等による社会秩序の混乱」も緊急事態だと記しています。これらの「非常事態」にはどう対処したらいいのでしょうか。

 おさらいの意味で言葉の整理をしておきましょう。緊急権というのは本来、既存の法にはない行為を、「緊急の必要」を理由に「例外」的に正当化できるか、という問題。仮に内閣が緊急権を主張しているとしても、これを判断する主体は、裁判所のような第三者的な機関であるべきだ、というのが本来の筋。そもそも国家には緊急権の主張を認めるべきでない、という徹底した考え方もある。

 これに対して、緊急事態条項(法制)は、そうした超法規的な緊急権論の出番を封じ込めるために、この「例外」をノーマル化することです。しかし、そこに定められた「例外」のそのまた「例外」を正当化するために、新たな緊急権論を呼び込んでしまう危険がある。また、緊急命令(勅令)のように、「緊急の必要」に対する第三者の審査を外す目的で、緊急事態条項を置くことが多いのも問題です。

 この点、現行憲法が置いた緊急事態条項は、参議院の緊急集会であったというわけです。また、自然災害については、法律レベルで、緊急事態法制がすでに整備されてきました。ここまでが、前回までの内容です。

 -「緊急事態」は自然災害だけではないのですよね。

 緊急事態の典型は、自然災害ではなく、「戦争」です。外国が攻めてくるという事態は、「例外」的でまさに「非常」事態というにふさわしい。さらに、戦争には「内戦」もあります。そこで、「外的な緊急事態」と区別された、「内的な緊急事態」を想定する必要があります。改憲草案でいう「内乱等」には、大規模なテロリズムも含まれているでしょう。

 そこで、今回は、「自然災害」に加えて、「外的な緊急事態」と「内的な緊急事態」をとりあげます。一口に緊急事態といっても、それら3つの類型を区別して、論じなくてはなりません。

  -まず「外的な緊急事態」についてお話いただけますか。

 よく比較される戦後西ドイツでは、緊急事態への対処を名目に英仏米3カ国の駐留を認めるドイツ条約を改正するために、憲法に緊急事態条項を新設する途を選びました。これとは対照的に、日米安保条約で米軍の駐留を継続する選択をした日本の場合には、独自に憲法で緊急事態条項をおく意味がありません。

 それどころか、「外的な緊急事態」への抑止力として「日米同盟」路線を強化する途を、昨年の安保法制で選んでしまった以上、ますます自前の緊急事態条項の必要性はなくなったはずです。逆に、そんなに必要だと主張するなら、沖縄の基地問題を解消する覚悟はできているのでしょうか。

 -在日米軍基地も絡んでくる問題、と。

 図式的にいえば、沖縄の基地問題を解消して初めて、憲法に緊急事態条項を新設する必要が生ずる、という関係にあるのです。それなのに、安保法制をゴリ押しして「日米同盟」を強化し、基地問題の解消を先延ばしにする一方で、緊急事態条項の新設を求める。そこに安倍政権の大いなる矛盾があります。

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