時代の正体〈300〉市民による市民の選挙 北海道補選から|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈300〉市民による市民の選挙 北海道補選から

SNSで拡散、全国から電話

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2016/04/26 09:08 更新:2017/10/26 21:54

【時代の正体取材班=田崎 基】今夏の参院選の前哨戦と位置付けられた衆院北海道5区補欠選挙は、与党候補と野党統一候補とが正面から激突した初の国政選挙となった。野党共闘に加え、市民団体も肩を並べる新しい形の選挙戦。その熱はフェイスブックやツイッターを通じて拡散し、全国各地から北海道の有権者に電話をかけるというかつてない動きに発展していった。野党統一候補が僅差まで詰め寄った「市民による市民の新しい選挙戦」を追った。

裏方


 冷たい雨と強風が吹き付けていた。投開票日前日の23日。選挙区内の団地に若者たちの姿があった。安全保障関連法に反対するために国会前で声を上げ続けていたSEALDs(シールズ)のメンバーだ。手にしているのは投開票日や投票方法を解説した「投票ガイド」。1万3千部刷ったパンフレットをひたすらポスティングしていた。

 野党共闘が結実し、池田真紀氏を統一候補として戦う初の選挙。それはシールズにとっても初の選挙戦だった。中心メンバーの奥田愛基さん(23)=横浜市=は今回、裏方役として力を注いだ。

 「参院選を踏まえれば、東京から駆け付けたからという理由でマイクを握ってその場を盛り上げても意味はない。大事なことはつまり、市民が政治を取り戻すということ」

 それは国会前でも、東京・渋谷の街宣でも繰り返し口にしてきたことだった。

 〈家に帰って、家族に、隣近所に、友人に話してください。一人一人ができることを、できるだけやってください〉

 参院選や衆院選となれば、政党は全国一斉に組織選挙を展開する。そのとき力を発揮しなければならないのは地域に住む個人であり、その横のつながりに違いない。そうした選挙戦でなければ、市民が政治を取り戻すこともまた、できはしない。


共闘


 全国各地からやってきた若者たち裏方の姿に、北海道で戦ってきた地元のグループは励まされていた。

 昨年11月に発足した安保関連法に反対する若者グループ「UNITE&FIGHT HOKKAIDO」(ユニキタ)。中心メンバーで団体職員の更科ひかりさん(30)は「私たちより走り回ってくれて、何より勇気づけられた」と振り返る。

 初めて実践する共闘。「口で言うほど簡単ではなかった」と更科さんは実感した。もともと安保法廃止を求めるグループとして発足したユニキタ。実際の国政選挙で野党共闘を支え、「選挙に行こうよ」と呼び掛ける活動に参加することには、内部で異論や議論もあったという。それでも「立憲主義を無視するような政治を許してはならない」と意見がまとまっていった。


 「きっと共闘した他の団体でも似たようなことがあったと思う。話し合いを重ね、克服できた成果は決して小さくない」

 選挙戦最終日午後8時前。更科さんは最後の演説会に集まった2千人を前に登壇した。見渡せば、民進党や共産党、社民党、平和団体、市民団体、労働組合の面々。こぎ着けるまでにぶつかりあったはずの顔ぶれが、共に肩を並べていた。調整に駆け回った日々を思い出し、声が上ずった。

 「1月30日に『野党は共闘を』と駅前で声を上げたときには、こんな景色が見られるとは思っていなかった。きょう、ここで皆さんと会えて、私は本当にうれしい」

進歩


 選挙戦も大詰めを迎えた22日。主戦場の北海道から千キロ離れた川崎市内のコミュニティーセンターの一室に15人が集まり、携帯電話を手にひたすら電話をかけていた。

 「池田真紀を応援する会の○○です。神奈川からお電話しています」

 共闘は、選挙区を遠く飛び越えて実践されていた。全国規模で展開した「イケマキ電話かけ作戦」だ。

 選挙運動に初めて関わったという川崎市に住む主婦の清水忍さん(56)は「思いの外、むげに切られることはなかった。むしろ電話の向こうから感じたのは、共感と希望だった」と話す。

 これまでも国会前に立ち安保法反対の声を上げたり、署名活動に参加したりしてきた。だが「チラシを渡すのと、直接話して伝えるのでは全然違った。どぶ板選挙というが、これは本当に侮れない」。全員で2時間かけ約400本分をこなしたという。フェイスブックを詳しく知らない人も、思いを託して携帯電話を握りしめていた。個々人が全国各地から「点」して応援してた作戦は、呼びかけによって集まった仲間たちによって確実に「線」となっていた。そして、その線は今夏の参院選で-。

 「電話かけ作戦」は、ネット上のある仕組みを利用していた。

 フェイスブックに「イケマキ電話作戦、3万本」と名付けられた企画が登場したのは投開票の2週間前。ユーザーが企画に賛同すると、管理人から電話かけのマニュアルや選挙区内の固定電話番号のリスト送信の方法が案内される。

 リストは、市販されているNTTの電話帳を元に管理人側が作成しており、ユーザーが必要数を連絡すれば、入手できるという段取りだ。

 生み出したのは愛媛県に住む会社員の黒川敦彦さん(37)。今回の北海道補選では、全国各地から600人近いボランティアが参加し、当初目標「3万本」を大きく超える5万917本の電話がかけられたという。

 「携帯電話の契約をかけ放題にしてください、と呼びかけた。固定電話だと際限なく通話料が取られるので。そうしたノウハウも今回浸透したと思う」

 かつてベンチャー企業を経営しマーケティングノウハウにも通じている黒川さんは「野党支援者の多くはどぶ板選挙のやり方を知らない。知ろうともしない。そこが問題」と苦言を隠さない。同じ手法を昨春の統一地方選で試した際、「1万本の電話かけが800票程度に結びついているのではないか」との推測値をはじき出すなど、効果を実感している。

 「自民党はネット上の投稿を分析する組織を立ち上げたばかり。池田候補の追い上げとネットの反応を見て、自民党は『どうやったらまねできるか』と広告会社に調べさせるだろう。だがたぶんできない。なぜか。僕らは思いがあって自らの意思で賛同し電話をかけている。動員ではない自発的な電話かけボランティア戦が果たして自民党にできるだろうか」

 当初、ダブルスコアとも言われていた自民党公認候補の和田義明氏と、池田氏の票差は、1万2325票(有効投票数25万9359票)だった。ここまで肉薄した結果に、黒川さんの手応えは確実なものとなった。和田氏に当選確実が出た後、フェイスブックにこう書き込んだ...

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