人種差別撤廃施策推進法案(下) 「差別は違法」

意見陳述・参考人質疑

「いつまでも共にこの街で」と書かれたプラカードを手にヘイトスピーチに抗議する住民ら=川崎市川崎区

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 ヘイトスピーチ(差別扇動表現)を含む人種差別を禁じる人種差別撤廃施策推進法案に関する参考人質疑が22日、参院法務委員会で行われた。参考人は、浅野善治(大東文化大大学院法務研究科教授)、スティーブン・ギブンズ(外国法事務弁護士)、金(キム)尚均(サンギュン)(龍谷大学法科大学院教授)、崔(チェ)江以子(カンイジャ)(社会福祉法人青丘社川崎市ふれあい館職員)。ヘイトスピーチを根絶するために「人権教育や啓もうが大切」といった意見の一方で、「言論で解決できる段階にない」といった切実な声も語られた。

「差別禁止の理念法」


西田昌司(自民) 何らかの規制は必要だという思いはあるものの、表現の自由との権利との間にバランスをどう取るのかが難しいと思う。まず、浅野参考人とギブンズ参考人に聞きます。法律でヘイトスピーチ規制することに問題があるという立場だと思うが、厳しい現実を聞いて、ほかにどのような方法でヘイトスピーチを規制できるのか、どんな手だてがあるのかということをご意見聞かせていただきたい。また、違う刑法で規制できないか、大音量でヘイトスピーチをやっているので、騒音防止条例といった、いまの法律でヘイトスピーチを止められるのではという気もするが、その辺りのご意見もお聞かせいただきたい。

金参考人と崔参考人については、いままで2人が経験してきた厳しい現実は分かるわけですが、もう片方で、ヘイトスピーチの定義をすることの難しさをどう乗り越えられるだろうか、というところが疑問に思う。ヘイトスピーチの定義をきっちり法律でできるのだろうか、司法に委ねず、公権力で規定することが難しいのではないかと思うが、その辺り、どのように乗り越えられるのか、お考えをお聞きしたい。

浅野 いま、2人の参考人の話を聞いていて、非常にひどい事態があるのではと思っています。しかし、一番ひどい事態に目が向けがちだが、法律をつくるときは、つくった結果、とんでもないところまで効力が及んでしまうのではないか、そこにきちんと線引きをできるのかというところに目を向けなければならない。法律をつくるのが無理かどうかというのは、もっと厳密にやってみないと分からないと思っていて、厳密に本当に必要なものをきれいに切り取れ取れるのであれば、法律をつくることについては特に問題はないと思いますが、いまの表現でやっていくと、とんでもない、思ってもないところに法律が使われて、とんでもない効果が出かねないというところに、懸念があります。一体、どういうことで効果を上げていけばいいのかということですが、名誉毀損(きそん)とか侮辱罪にあたるという判断があるのであれば、そういうものを積極的に適用していくのも一つの方法だと思います。また、社会が「こういったもの、おかしいじゃないか」ということを明確にして、ヘイトスピーチを許さないということをポスターも出ているようだが、人権教育とか、人権啓発の中でしっかり広めていく、そういうことが非常に効果あると思います。実際、どういうものを防がなければいけないのかという判断事態は、社会の自由な議論に任せることが、適当だと思います。

ギブンズ これは、法律とされているが、私は弁護士として救済条項がないと刃のない法律になってしまうと思う。法律の精神は日本国はこういうことを共有しないという理念の宣言だと思う。法律から理念の宣言に変えれば、いろいろ解消できるのではないかと思う。デモの場所、時間、音量、やり方をより厳しくして、より制限すると、聞きたくない、見たくない一般の人、また対象人物が受けなくてもいいようなことになって、そういうような制限は憲法上、問題ないと思うので、そういうことも検討したらいかがかと思います。

 本法案に対して、とりわけ刑罰を問題にしているわけではありません。本法案は、差別禁止の理念法です。ヘイトスピーチ規制に関しては、EU諸国、全国がヘイトスピーチ規制を持っているとうことであります。諸国の比較が非常に大事になってくると思います。国連自由権規約の20条2項が先例になると思います。二つ目としては、欧州閣僚会議、1987年にあったが、そこでの勧告において、ヘイトスピーチの定義がなされ、ヘイトスピーチのマニュアルというものがつくられています。これは、英語でも読めます。インターネットでも見られるので、これが参考になると思います。最近では、人種差別撤廃委員会から一般的勧告35が出ていて、そこでより明確にヘイトスピーチの定義がある。諸国の比較を通じて、日本の差別禁止についても十分に生かせると考えています。その点では、差別の定義ないし、ヘイトスピーチの定義については、各国それぞれ経験を踏まえた所見がなされると思います。

 差別がなくて、法律もなくて、両方ないほうがいいのかもしれませんが、現に差別があります。差別があるのに、法律がない。悪い状態を放置するのではなく、悪い状態をもとに回復するための手段として議論していただきたい。

有田芳生(民主) 常々思っていることだが、人間の認識は限界があり、日々、この限界を超えるには何が必要かと顧みることがあります。できるのならば、問題があるならば、現場に立って、自分の耳で聞いて、目で見て、空気、臭いまで含めて自分で感じて現実に近づきたいと思っています。浅野参考人、ギブンズ参考人にお伺いしたいのだが、お2人は、ヘイトスピーチの現場に立ったことはおありでしょうか。もし、ご経験があるならば、ヘイトスピーチの実態についてどのようにお感じになったでしょうか。被害者の方から悲しみ、苦しみ、そういったことをお聞きになったことはございますか。あるならば、どのようにお感じになったでしょうか。

浅野 実際の現場に行ったことはございません。ユーチューブなどでヘイトスピーチの実態というものを画像や映像などでは十分見ております。感想は「こりゃ、ひどいな」と思いました。それと同時に、法律をつくる立場からすると「これは、極めて難しいな」と思った。ひどいものというのは、大体の想像はつきますが、非常にお気の毒だとも思いますが、しかし、これだけをもって、何がひどいのか、何に傷付いているのか、ということを限定的に切り取って、そこだけを規制することは十分ではない。となると、逆にどこまで広げるのか、という話になると思う。極めて限定することが非常に難しいなと思いました。まずは、人権教育や人権啓発を盛んに活用して、まずは社会の基盤をつくっていくことが重要だと思った。

ギブンズ 一回、在特会のパレードを見たことがあります。まさしく、ひどいと思います。私は日本人ではなく、米国人です。私の祖先は南部にいて、その歴史で米国の奴隷制度、黒人の扱いでその流れも直接、経験しています。私のミドルネームは、私の父親が戦争のときに一緒に戦った黒人の兵士の名前です。彼の親にいまの時代は違うんだよ、白人と黒人は一緒ですよ、と伝えたかったと思う。しかし、伝統と歴史にある米国の最高裁の判決において、いまでも黒人に対する、ユダヤ人に対する、同性愛者に対する発言は保護されています。私は米国の一つの力だと思っています。

有田 浅野参考人にもう一点、お伺いしますが、この法案だと「とんでもない方向に行く」というご発言がありましたが、具体的にとんでもない方向とはどういう方向なのか。

浅野 具体的なイメージがあるわけではありません。何が出てくるかは分からないというところが一番怖いところだと思っています。法律ができて、公権力を行使するということになると、公平、中立に公権力が行使されなければいけないというところがあります。あらゆる主張、どんな色がついている主張であっても、不当な差別というものがあれば、同じように規制していくことになると思う。こういった法律案をつくるときに、想定したもの以外、どんなものに及ぶのかということも含めて、すべて検討して考えていく必要があると思う。そういう意味で一つのものを見るのではなく、幅広くどういうものに及ぶのかということを決定していくことが必要だと思います。

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