令状なし「違法」 地裁、全国初判断か 県警リモート捜査

リモート捜査のイメージ

 身分証を偽造したとして有印公文書偽造などの罪に問われた被告の男(43)の判決で、県警が捜査対象のクラウド型サーバーから資料を押収した捜査手法について、横浜地裁(三浦透裁判長)は17日、「必要な司法審査を経ず、刑事訴訟法の基本的な枠組みに反し違法」とする判断を示した。クラウド型サーバーに対する「リモート(遠隔)差し押さえ」の違法性を認めた判断は、国内で初めてとみられる。

 リモート差し押さえは、クラウドのようにネットワークの接続先にある証拠について、捜査対象のパソコン(PC)などを押収する際に接続先のサーバー内にある証拠も複写して差し押さえることができるとした捜査手法。刑事訴訟法218条2項で規定している。

 判決によると、県警は2012年11月、押収したPCからリモート差し押さえで接続先のサーバー内の資料を押収。このときに得ていたのはPC内部の検証が許可された令状で、三浦裁判長は「インターネットに接続し、メールサーバーにアクセスすることは認められない」とし、関連する証拠7点を採用しなかった。

 捜査対象のサーバーは、偽造した身分証をネット上で売買するため、顧客とのやりとりに使われたクラウド型メールサーバー。米IT大手グーグルが管理しており、判決は「他国にサーバーが存在する可能性を前提とせざるを得ず、主権侵害が問題となり得るため適切な配慮を欠いていた」とも指摘した。

 地裁は男に対し、サーバー以外の捜査で得られた証拠に基づいて懲役8年(求刑9年)の判決を言い渡した。無罪を主張していた弁護側は即日控訴した。

 横浜地検の林秀行次席検事は「捜査の違法について指摘を受けた点について十分に検討し、どう対応するか考えたい」。弁護人の金谷達成弁護士は「証拠を排除したことは評価できるが、不当な判決」とした。

 捜査に当たった県警サイバー犯罪対策課は「判決に対してコメントは差し控える。今後も適正捜査に努めていく」とコメントした。

▽IT対応 態勢整備を
 指宿信・成城大教授(刑事訴訟法)の話 リモート(遠隔)差し押さえの違法性を認めた国内で初めての判決だろう。検証許可状ではリモート差し押さえができないと認めた点で意義がある。本件のような場合は、サーバーを管理する事業者に協力を求めるか、海外企業の場合は捜査共助を要請する必要がある。

 米国にはコンピューター犯罪捜査のための『司法省ガイドライン』があるが、日本も捜査機関の内部で準則などをつくるべきだろう。今後もネットワークやクラウドに対する捜査は増えると思われ、IT技術に対応した捜査態勢を整備すべきだ。

◆クラウド型サービス
 企業や個人のデータの保存や処理を、インターネット上で行う仕組み。高速度のインターネット通信の普及などを背景に、2000年代後半から本格的に普及した。データを利用者の端末内ではなく無数のサーバー群「クラウド」(雲)に保存し、利用者は通信回線を通じてパソコンやスマートフォンなどの端末で呼び出して利用する。

▽刑事訴訟の基本重視 /解説 
 横浜地裁が証拠の採用をしなかったのは、「令状主義の精神を没却する重大な違法がある」と判断したためだ。

 県警は一度は「リモート差し押さえ」に必要な令状を取得していた。だが端末のアクセス制限から断念し、検討を重ねた上で今回の手法に至ったという。

 当時は「リモート差し押さえ」を規定した改正法施行の直後。先行事例も限られる中で模索した結果との見方もできるが、令状の範囲を超えた捜査に対し、地裁は刑事訴訟の基本的な枠組みを重視して「違法」と結論付けた。

 判決で採用されなかった証拠は、公判途中で代わった弁護人が問題視したこともあって適法性が問われた。正面から争われたことで表面化したものの、同様の捜査が神奈川県警以外で行われていたことも否定できない。

 データに対する捜査は特殊性があり、問題が見過ごされかねない危険性をはらんでいる。全国初とみられる違法判断は、刑事司法にかかわる関係者に警鐘を鳴らしたとも言えそうだ。 

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