時代の正体〈268〉キャスターたちの会見(上) 暴走止めてこそ公平
- 神奈川新聞|
- 公開:2016/03/04 11:57 更新:2016/07/14 09:14
「高市発言を聞き、驚きあきれた。放送法の精神、目的を知らないで発言しているのなら大臣失格。知っていて曲解しているのなら、言論統制に進みたいという意図があると思われても仕方がない」
2月29日の会見で岸井さんはそう口火を切った。
放送法の精神-。目的を記す第1条2号にはこうある。
〈放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること〉
干渉をするのは公権力の側なのだから、放送の不偏不党と自律を保障する主体は当然、公権力の側だ。高市氏は「政治的に公平であること」などとする第4条を停波の根拠とするが、法の趣旨や表現の自由を保障する憲法21条との整合性から、第4条は努力目標を掲げた倫理規定というのが定説だ。
政治的中立性が求められる主客をひっくり返し、報道をコントロールしようという意図が、知らないはずのない解釈のねじ曲げにのぞく。できなかった集団的自衛権の行使を憲法解釈を180度変えることによってできるようにし、そうして自らに課せられた憲法のしばりを振りほどいてみせた安倍政権の暴走、倒錯がそこに重なる。

会見で見解を述べる岸井さん=2月29日、日本記者クラブ
政治はうそをつく
岸井さんは毎日新聞で特別論説委員、主筆を務め、政治の公平・公正とジャーナリズムの役割と向き合ってきた。
「政治的公平性とは権力側が判断することではない。われわれメディアが気を付けないといけないのは、政治家、官僚は大事なことはしゃべらない、隠す、場合によってはうそをつくということだ。本当のことを知らせ、国民の知る権利に応える。それを公平と考える。政府、権力側の言うことだけを流していれば公平性を欠き、国民の知る権利を損なうことになる」
さながら、会場に集まった取材の記者たちに向けたメッセージのよう。
「公平・公正という言葉にみなだまされてしまう。公平・公正なのは当たり前で、正しいとみんな思ってしまう。でも、政治的公平・公正と一般の公平・公正とはまったく違う。権力は強くなればなるほど必ず腐敗し、暴走する。これは政治の鉄則。そうさせてはならないというのがジャーナリズムの鉄則。チェックをすることで暴走にブレーキをかけ、止める。これがジャーナリズムの公平・公正だ。それを忘れたジャーナリズムはジャーナリズムではない」