時代の正体〈258〉緊急事態条項は「独裁許す全権委任」

憲法学者・長谷部恭男さん 「緊急事態条項」に危機感

 安倍晋三首相は夏の参院選で憲法改正を争点にする考えを明言する。中でも意欲的なのが自民党の改憲草案に盛り込まれた「緊急事態条項」の新設だ。戦争や大災害時、首相の権限強化と国民の権利制限を規定するものだが、憲法学者の長谷部恭男・早稲田大教授は「法律で十分対応でき、憲法改正は不必要」と断じる。学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」の集会で講演に立ち、ナチスの独裁を許した「授権法」(全権委任法)になぞらえ危機感をあらわにした。

 緊急事態に対応するなら災害対策基本法や有事法制など、現時点で必要と考え得る制度はもうできています。さらに必要があるなら国会で法律を作ればいいだけだ。(法律を作らずに緊急事態条項を発動し)普段から準備をしていないことを泥縄式に行っていっても、事態への対応を実効的に動かしていくことはできません。

 衆議院が解散されているときに大規模災害が起き、外敵が攻め込んできた場合、「解散から40日以内に総選挙ができず、緊急事態条項による対処が必要になる」と主張する人もいます。そんな事が起こる可能性はほとんどありませんが、緊急時でも選挙をすればよい。第2次世界大戦中の1942年にも総選挙が行われたことがありました。選挙が解散から40日以内にできなくても、最高裁が選挙を無効と判断するとは思えません。

 緊急事態への対応が必要なら国会を召集して、必要な法律を作ればいい。衆院が解散されているのなら、憲法54条の2項には(衆院が解散され総選挙で新しい衆議院が成立するまでの間に、内閣の求めにより開かれる)参議院の緊急集会の制度がある。どう考えても、緊急事態条項は必要ありません。めったに起きないことを想定するのは、重箱の隅をつつくような議論です。

手 口

 安倍政権は具体的根拠も必要性もないのに国民の不安をあおり、「対応する必要がある」と訴えてきました。安全保障法制をめぐる議論と同じ手口です。

 安全ではなく安心を保障しようとしている。不安の種は尽きることはないので、安心を保障するための制度にはきりがありません。政府の権限は無限に拡大することになる。そうしたことをやってきた政府であり、これからもやっていくと思わないといけない。

 私が不要だと主張しても(推進派は)諦めるような人たちではありません。もし、緊急事態条項を憲法に盛り込むのならグローバルスタンダード(国際標準)を取り入れる必要があります。

 それは裁判所によるコントロール(統制)です。日本には「高度に政治的な問題に裁判所は口を出さない」という統治行為論という法理があります。緊急事態条項が適用され、政府に権力が集中されれば、高度に政治的な問題に裁判所がものを言わないといけなくなる。判断を回避しないよう「裁判所は統治行為論を使わない」ということを憲法に書いておく必要がある。

 最高裁の人事に政府が口を出すことも防がねばなりません。最高裁判事の任命には国会両院の3分の2の同意が必要だとすることも必要です。権力が集中した政府が何をやり出すか、分からないからです。必要がないものを無理矢理入れようとするのなら、幾重にも、それに備えるための仕掛けを導入する必要がある。それをしないと日本の立憲主義が壊れてしまう。

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