時代の正体〈254〉ヘイトスピーチ考② 街を守った市井の仲間

桜本封鎖(2)

 集合場所である川崎市川崎区の富士見公園を後にした差別主義者の一団を追い、大通りへ出る。マイクロバスのような県警の警備車両の列が目に飛び込んできた。4車線道路の両側に29台。前回昨年11月のヘイトスピーチ・デモのときの4倍以上だ。程なく、これほどの厳戒態勢を敷いた意味を知ることになる。

倒錯

 長男と抗議の声を上げた在日コリアン3世、崔(チェ)江以子(カンイジャ)(42)が1月31日の思いを残しておこうとつづった文面に緊迫感が伝わる。

 〈デモの進路は想定外だった。追分から駅に向かうと思っていたら、まさかの四つ角方面だった。権力が差別に加担した瞬間を私は息子と一緒に見た。規制線が張られ、「差別をやめろ」と叫ぶ仲間が排除された場面を息子と見た。桜本を守らなきゃと必死に走って「四つ角を封鎖!」「桜本を守れ!」と叫びながら走った。いつもはお遣いで通る生活の道を泣き叫びながら走った〉

 千人規模の抗議をよそに差別デモの行進は多くの在日コリアンが暮らす臨海部、つまり暮らしの場へと踏みいっていく。

 「なぜ日本が嫌いなのに日本に住んでいるのか。まさに存在そのものが犯罪だ。朝鮮人、韓国人の存在そのものが犯罪。気に入らないとすぐ差別、差別、ヘイト、ヘイトと言いやがる。ばかたれども。そんな話の通じないやつらは日本に必要ない。朝鮮人は北朝鮮へ帰れ。おまえら朝鮮人が日本にいても、ろくなことはないんだ」

 うそと、その自らのうそで肥大させた被害者意識に塗り固められた憎悪。誰の目にも明らかな人権侵害は野放しのまま、許可したルート通りにデモを実施させることに腐心し、抗議の人たちを力ずくで遠ざける県警。表現の自由をかたる差別する自由を守り、一方で差別に抗議する自由を奪うという倒錯。

 そして桜本へと向かうコースを許可したその判断はどうだ。在日と日本人が軒先を重ね、子どもたちが教室で机を隣にし、共に生きるを合言葉に互いの違いを大切にする街、桜本。そこへ差別集団が押し入る重大性と悪質さを知りながら、なぜ、どうしてという疑問と憤りが崔の頭を駆け巡る。

 100メートルもない水門通りを抜ければ桜本という大島3丁目交差点、走って先回りしていた女性(59)が叫んだ。

 「みんな、手をつなごう」

 指紋押なつ拒否運動をはじめ、この街で民族差別と闘い40年以上、権力の無慈悲さを思い知らされてきたその人のとっさの判断。声にはじかれたように一人、また一人と冷たいアスファルトの路面にあおむけになっていく。ぎりぎり最後の一線はここにあり、これ以上の被害は許されないという決意表明のシット・インだった。

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