時代の正体〈253〉ヘイトスピーチ考① 交錯した希望と絶望

桜本封鎖(1)

 在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチデモが再び川崎・桜本を狙って計画された。1月31日、県警の許可を得た差別主義者の一団が川崎市川崎区の臨海部の街中を通ってゆく。希望と絶望が交錯した差別デモとその後を、在日3世のオモニ(母親)のまなざしを通して追った。

 仕事を終えて帰宅した夜、崔(チェ)江以子(カンイジャ)(42)はスマートフォンを取り出し、画面に文字を打ち込んでいった。入り交じる気持ちを整理し、思いを確かめるように。目を閉じればあの日の光景はまだ生々しく、胸がぎゅっと締め付けられる。

 〈私は仲間が準備してくれた、市販の黄色い収納ボックスをひっくり返しただけのお立ち台に立った。この高さ30センチの台に乗ることに最大限の勇気を振り絞らなきゃいけなかった〉
 差別デモの集合場所、富士見公園ふれあい広場に日の丸がはためき、「在日は大嘘(うそ)つき」「帰れ!帰れ!お前が帰れ!半島へ」のプラカードが揺れる。崔は、そのデモと称した差別に抗議するため集まった人たちの先頭に立っていた。

勇気

 〈目の前のひどい現実と戦いながら台に乗った。私の目にはヘイトデモをするために集まった群衆がはっきり見えた。彼らからも私が見えたはず。一斉に彼らのカメラが私を向いた。だけど私はひるまなかった。息子の姿、ハルモニ(在日のおばあさん)の背中、呼び掛けに応えて結集してくれた仲間。何より横断幕に寄せ書きをしてくれた桜本の子どもや若者の思いが30センチの箱に立つ私の心と足を支えてくれた〉
 横断幕に太書きされた祈りのような「桜本安寧」「川崎安寧」の文字。寄せ書きに思いがにじむ。「差別はかっこ悪い!!」「私にはにほんじんの友だちがいっぱいいるよ」

 なるべく目立たせないようにした方がいいのではという親の迷いをよそに長男は自らマイクを手に取った。「差別のない世の中を作ってくれると大人を信じます」。2カ月余り前に目にした差別デモの記憶がよみがえり「唇と手が震えていた」という中学1年生の勇気。

 傍らで在日1世のハルモニ(おばあさん)は通りすがりの近隣住民に迫っていた。何事かと立ち止まった男性に「ヘイトスピーチよ。川崎で何度もあるのよ。あなたもこちらの仲間になってよ」。日本による朝鮮半島の植民地支配に始まり、なおやまぬ差別への憤怒。趙(チョウ)良葉(ヤンヨプ)(78)はやはりマイクを握って、「親も私たちも戦争や戦後を生きてきた。貧しい中を生きてきた。日本には貢献したが迷惑は掛けていない」と訴えた。

 画面に打ち込む崔の指先に力がこもった。

 〈黄色い収納ボックスは私たちの晴れ舞台になった。抗議の仕方が乱暴だ、子どもを前に立たせるなんてといった安全な場所から非難するだけの人たちは絶対に立てない、誇り高き舞台になった〉

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