時代の正体〈251〉「ヘイトスピーチを許さない」市民集会(中)

「共に生きる」伝えたい

 
 中学1年生の少年(13)は約300人の参加者を前に「とても緊張していますが、ヘイトスピーチは絶対許せないので勇気を出して話したいと思います」とマイクを握りしめた。わが街、川崎市川崎区桜本を標的にしたヘイトデモが計画されたのは昨年11月のことだった。抗議の人垣ができ、コースは変更になった。沿道から叫んだ。

 「もっと勉強しろーっ」

 誰もが違いを受け止めて、共に生きるこの街に、差別をする人が入り込む余地などない。そう伝えることでデモをやめさせるのだという真っすぐな思いの発露。

 話すうち、まぶたに光景がよみがえり、声が詰まった。「胸がズキズキして苦しかった。でも、話すことでヘイトスピーチがなくなるきっかけになるかもしれないと思った」。自分が自分であるために、語るのをやめなかった9分間-。


 僕のオモニ(母)は在日韓国人です。父は日本人です。僕は小さいころから二つの文化背景がある「ダブル」ということを、家族やまわりからとっても大切にされて育ってきました。

 小学校に入学した時に、まわりと同じように言ったほうがいいのかなと思い、オモニのことをママと言い換えていたら、学校の先生が家で呼ぶように「オモニ」と呼んでいいのよ、と優しく話し掛けてくれました。クラスのみんなにも、先生が韓国・朝鮮ではオモニと言うことを説明してくれました。今では僕の友人たちも僕と同じように「オモニ」と声を掛けてくれます。

 小学校の卒業式や中学校の入学式でオモニはとってもきれいなチマ・チョゴリを着ます。派手だし、まわりがどんな反応をするか心配したこともありますが、みんなからきれいと褒められ、一緒に写真を撮ってと言われていたオモニを「僕より目立ってどうすんだよ」と思いましたが、ちょっと自慢にも思います。

 僕が地域を歩いていると「アンニョン」と保育園の先生や地域の人があいさつをしてくれます。「オモニはプンムルノリ(朝鮮半島に伝わる伝統芸能・農楽)がとっても上手でいいね」「(異なるルーツや文化を持つ市民が交流する)ふれあい館でオモニが働いているなんてうらやましい」と言ってくれる友人もたくさんいます。

 僕には、日本人の友だちや同じコリアンダブルの友だちやフィリピン、ベトナム、ブラジルにルーツを持つ友だちがたくさんいますが、その違いでからかったり、からかわれたりすることなく過ごしてきました。

 だから11月8日にヘイトデモが桜本に来ると聞いた時は、正直、何しにこんないい街に来るんだ、来ないでほしいと思いました。

 父やオモニは嫌な思いをするからと、僕がヘイトデモの反対行動に行くことを心配しましたが、僕はデモをしてひどいことをいう人たちに、普通にみんな仲良くやっていることを説明すれば分かってくれる。話し合えば分かり合えると思えたんですよ。

 ところが、僕の想像以上にヘイトデモはひどい状況でした。「差別はやめろ」「共に生きよう」と語り掛ければ来なくなる、こういう差別もなくなると思っていました。けれどやつらはへらへらと笑いながら手招きをして挑発をしてきました。

 近づこうとしたら、警察に止められ、あっちへ行け、来るなと暴言を言われました。差別をする人に差別は駄目だと言いたいだけなのに、なんで止められないといけないんだと思いました。

 隣にいるオモニを見たら、もう泣いていました。そうしたら僕も泣いてしまいました。父は前の方ですごく怒っていました。いつもは優しい父がとっても怒っていて、あんなに怒ったのは初めて見ました。地域のみなさんも頑張ったし、(デモ隊は)桜本には来られなかったけれど、とても嫌な気持ちが残りました。このヘイトデモのことは今でも忘れられない今までの生活の中で一番嫌な出来事でした。

 でも次の日、学校に行ったら先生が「変なことを言う人たちが来たけれど、味方がいっぱいいるからな」と声を掛けてくれました。同じクラスの子が「車から見かけたけれど大丈夫だった? うちら韓国人は何も悪いことをしていないのにね」と話し掛けてくれました。

 12月に学校の人権教育講演会があり、講師でオモニが来て、ヘイトデモの話をしてくれました。いつもは寝てしまったり、話をあまり聞かない人もすごく真面目に真剣に聞いていました。講演が終わって教室に戻ると「ヘイトデモありえない」「ヘイトスピーチする大人がみっともない」「みんな仲良く暮らしているのに迷惑」「許せない」と話していました。

 僕も大切な家族や友人や地域の人たちを傷つけるヘイトスピーチが許せません。

 オモニがオモニと呼ばれる。アンニョンとあいさつを交わす。商店街の「日本のまつり」で朝鮮のプンムルノリをすると街のみんなが喜んでくれる。フィリピンのバンブーダンスやフィリピン料理が人気がある。こんな共に生きる街、川崎・桜本にヘイトスピーチなんて要りません。

 大阪ではヘイトスピーチを規制する条例ができたと聞きました。大阪で駄目なものが川崎で許されるわけがなく、どこでもいつでも差別は駄目だと思います。川崎でも早く条例を作ってほしいです。僕も勇気を出して「差別はやめろ」「共に生きよう」と伝えていきます。みんなで一緒に頑張りましょう。

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