時代の正体〈248〉改憲(上)木村草太さん

安倍政権の矛盾と屈折

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2016/01/24 02:00 更新:2016/05/14 22:07
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 憲法改正について年頭会見で「参院選でしっかりと訴える」と争点に掲げた安倍晋三首相は、数日後の報道番組では「発議に必要な3分の2議席を目指す」と明言してみせた。だが気鋭の憲法学者はどこか鼻白んでいた。首都大学東京准教授の木村草太さんは「犯罪者が刑法を改正しろと言っているようなもの」と切り捨てる。今夏の参院選の結果次第では現実味を帯びる「改憲」。公布から70年を迎えるこの国の最高法規は、いま岐路にある。

 権力は常に腐敗し、暴走する。この歴史的経験から、権力を憲法で縛るのが立憲主義。その憲法を、権力者の側が「変えたい、変えたい」と口にする政権の姿に倒錯をみる。

 「政治家というのは憲法による拘束を受ける側ですから、こうした動きは、警戒しなければならない」。木村さんは、淡々と安倍政権の改憲思想の矛盾と屈折を分析し始めた。

場当たり的な改憲提案

 安倍政権が試みてきた改憲への経緯を俯瞰(ふかん)すると、現在の主張の場当たりぶりが浮かび上がる。まず「9条改正」を提案しようと考えた。が、発議できたとしても国民投票で過半数を獲得するのは極めて困難と判断し見送った。

 次に持ち出したのが「96条改正」だ。改憲発議の条件である「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」を過半数に緩和しようと動いた。「ところがこれが、思わぬ反発を受けてしまった」

 改憲派とされてきた小林節慶応大名誉教授から「裏口入学」と指弾され、憲法学界の権威とされる重鎮たちが「96条の会」を立ち上げ、一斉に反対ののろしを上げた。そこであっさり96条改正の道を諦めた。

 その後に「環境権条項」を提案しようとしたが公明党からはねつけられ引っ込めた。「環境権は開発を止める権利だから喜ぶ人はたくさんいるでしょう。だが自民公明与党の政策には必ずしも合致しているわけではない。例えば原発再稼働にもかなりのインパクトを持ちうる。結局、これは政権にとって危ないと気付いた」

 そこで残ったのが、緊急事態条項。「片っ端から挙げていって、いま緊急事態条項とみた方がいい」。政権が声高に掲げる改憲論議に木村さんが興ざめするのは、その場当たり的やり方ゆえだ。

 「政権はこれまで常に『これなら大丈夫だろう』と思って提案している。非常に無邪気で、そこに理念や政策的理想はない。確かにいま世論調査をすれば緊急事態条項が一番賛同を得られやすいだろう。だが、現実には議論が進めば進むほどに反対意見が増え、これもつぶれるのではないだろうか」

 なんとしても実現したい政策があり、解決のために法改正しても違憲になる。憲法の条項に不都合があるから改憲が必要、という本来あるべき思考過程がそこには感じられない。

 「順番が完全に逆なのです。安倍政権はまず『憲法を変えたい』という出発点に立ち、『変えられるところはどこだろうか』と探している。非常に不合理であり、普通はやらない」

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