夜明けの星に(下)連覇と代表入り懸け|カナロコ|神奈川新聞ニュース

夜明けの星に(下)連覇と代表入り懸け

考えられなかった夢

日本代表入りを目指す遠藤選手

 意味のないことだと、分かっている。でも、どうしても比較してしまう。健常者としての人生と、片足をなくした人生と。「事故を境に分かれた、二つの道を考えてしまうんです」

 藤沢市の薬剤師遠藤好彦さん(36)は、18歳の時にバイク事故で右足を失った。小学校2年からサッカーをやっていた。大学に入学し、体育会に入ったばかりだった。現実は受け入れられなかった。「今だってそういう部分はある」。サッカーが大好きだったからこそ、近づけなくなった。

 2年前。妻がある新聞記事を持ってきた。日本にアンプティサッカーを広めたエンヒッキ松茂良選手(26)を伝えるものだった。「連絡先が書いてあって、妻が体験会に勝手に応募したんですよ」。乗り気ではなかった。「障害者サッカー」に、気持ちが奮い立つことはないと思った。

 違った。ボールを蹴る。少ししびれるような衝撃が、足を伝う。パスが会話の代わりになる。競り合いでは遠慮なく体をぶつけ合う。健常者のそれと変わりないシュートが飛ぶ。想像していたより、はるかに「サッカー」だった。雨が降っていた。仲間と一緒にずぶぬれになって笑う。人生にそんな時間があること、忘れていた。

 そして、エンヒッキ選手だった。「健常時代の自分よりうまい。化け物みたいだなと思った」。ファンタジスタが所属する、アウボラーダ川崎に加入した。

 昨年、日本選手権で初優勝を果たした後、チームの半沢真一監督(28)から電話があった。告げられたのは日本代表候補入りだった。信じられなかった。「日の丸なんて考えたこともない。候補だって、自分にしてみれば夢がかなったみたいなものだから」

 いつか代表になる-。

 無邪気なサッカー少年のような夢を、今は現実として見ていられる。だから時間を見つけては、クラッチ(杖(つえ))を使って走り込みをし、壁に向かってボールを蹴る。「自分というより、周りに言われるんですよ。『なんか前と変わったね』って」

 22、23日の日本選手権には王者として連覇に挑む。チームを最優先としながらも、遠藤選手にとっては代表入りのアピールも懸かる大会だ。「まだ点を取ったことがない。主にDFですが、チャンスはゼロではないはず」。競技歴はまだ1年半。伸びしろは十分だ。

 大会では、日本代表を多数擁するFC九州バイラオールをはじめ、厳しい戦いが待ち受ける。半沢監督も「昨年のバイラオールとの決勝も2-1とぎりぎりだった。絶対に簡単にはいかない。いかに強い気持ちで戦えるかが大事」と話す。

 2013年に発足したアウボラーダはポルトガル語で「夜明け」を意味する。たくさんの応援を受けてきたからこそ、次は自分たちが勇気を与える存在に、との願いを込めた。誰にもあったはずの長い夜の先、一人一人が輝く星にと。

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