仲村トオル「自分を走らせるもの」
旬漢〈9〉
- 旬漢|神奈川新聞|
- 公開:2015/10/14 03:00 更新:2017/09/28 23:15
原作は太宰治の絶筆作「グッド・バイ」。新聞連載用に書かれた小説だが、太宰が愛人と自殺したため13回分で幕を閉じた。未完作の扉を開き、脚本・演出を務めたのは、劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。追記した言葉が浮かぬよう、「姥捨」に出てくる「死のうか一緒に」など過去に太宰が発表した作品の言葉を演者の台詞に含ませている。さらに「グッド・バイ」に出てくる怪力の美女・キヌ子(小池)が背水の陣を「フクスイ」と読む頭の弱さを〝活かそう〟と、日直を〝ひじき〟、曲(くせ)者を〝まげもの〟と読ませるなど、太宰のにおいを感じる仕掛けも巧妙だ。仲村は「自ら人生を閉じた人が、死の直前に書いたとは思えない。驚くほど明るい」と話すように、別れがテーマだが、トンチンカンなやりとりは、涙よりも笑いを誘う。KERAの脚色に、太宰が大笑いしている声が聞こえてくるようだ。